量子力学をかじってみる

2023年度のノーベル賞が日々発表されています。私が高校時代に最も苦手科目としていた物理に興味を抱くようになったのは量子力学を知るようになった最近のことです。
ですからノーベル賞の中でも物理学賞受賞者や受賞理由については関心を寄せています。
今年の物理学賞は「物質中の電子ダイナミクスの測定を可能にするアト秒パルス光を生成する実験手法の開発」で米独典の3氏が受賞しました。猛スピードで物質中を移動する電子の動きから650アト秒(アト秒は100京分の1秒)の単一の光パルスを取り出すことに成功したとのことで、今後は半導体材料などへの応用が期待されているとのことです。

電子は、宇宙を構成するレプトンに分類される素粒子のひとつであり、量子力学の代表的な研究対象と言えます。高校時代には電子は原子核の周りをぐるぐる回っているマイナスの電荷を持つ物質(素粒子)と教わったが、当時は興味もなく反粒子である陽電子が存在することも知る由もありませんでした。

量子とは、粒子と波の性質をあわせ持った極小の物質やエネルギーの単位のことです。物質を形作っている原子そのものや、原子を形作っている電子・中性子・陽子といったものが量子です。光を粒子としてみたときの光子やニュートリノやクォーク、宇宙線を構成するミュオンなどといった素粒子も量子です。量子と素粒子は何が違うのか分かりづらいです。私の理解ではクォークを物体として見た時には素粒子という呼称で、物質(性質)として見た時には量子という呼称になるのかなあといった感じです。

量子力学は確率的な理論で、例えば電子の振る舞いは波動関数によって確率的に記述されます。つまり量子力学では電子の存在確率分布を表し、測定の結果も確率的に表されることになります。粒子の位置や角運動量などの情報は、人間が観察するまで状態は確定しない(「シュレーディンガーの猫」参照)というのが「量子の重ね合わせ」と言われる量子の特徴のひとつです。量子コンピュータはこの性質を利用した超高速コンピュータですが、微細な量子をコントロールすることは容易なことではなく、実用化までにはまだまだ時間がかかると言われています。

量子のもうひとつの特徴が「量子もつれ」です。かの天才アインシュタインも「そんなはずはない(神はサイコロを振らない)」と終生納得しなかった事象です。一旦2つの量子に量子もつれ関係ができると、量子同士に強い結びつきができます。例えば、2つの電子が同じ原子核から放出されると、その2つの電子には量子もつれ状態が生成されます。一方の状態が確定すると、どんなに距離が離れていても瞬時にもう一方の状態が確定するという現象です。

量子力学の奇妙さは私たちが良く知る日常の世界とは異なる物理現象が起きているので、理解するのには非常に困難が伴います。

昨年のノーベル物理学賞は「量子もつれ状態の光子を用いた実験によるベルの不等式の破れの実証と、量子情報科学における先駆的研究」で米仏墺の三氏が受賞しました。受賞理由にある「ベルの不等式の破れ」とは、量子もつれ関係にあるふたつの粒子の間の相関を記述する不等式です。2つの相関した量子において、生まれた時に個々の量子の状態が0あるいは1に既に古典的に決まっているとするとベルの不等式が成立します。しかし、量子もつれと呼ばれる性質が正しいとすれば、そのような不等式は成立しません。これまでこの不等式の破れを実験で測定することは非常に難しかったのですが、1970年代から様々な工夫を凝らして完璧な条件設定を追求することで、その不等式の破れを実証し、先の三氏が受賞しました。そのひとりであるウィーン大のツァイリンガー博士は1997年に粒子同士が通じ合う量子もつれを利用して、ある粒子の状態を離れた場所にある別の粒子に瞬間的に移す「量子テレポーテーション」の実験に成功しています。

量子論で最も興味深いのは、量子が波として振る舞うことと、粒子として振る舞うことの二重性をもっていることです。この事象は有名な「二重スリット実験」で実証されています。人間が目視にせよカメラなどの機器を使ったにせよ、二重スリットを通過する光子は粒子として観測されますが、観測をせずにその結果だけを確認すると干渉縞となっており、これは光子が波として振舞った証になります。観測すること自体が光を介して行われるので、測定を行うことで粒子の振る舞いに変化を及ぼすとされ、これは「観測問題」と呼ばれています。
二重スリット実験の基本的な結果は理解されていますが、その解釈や測定の影響に関する議論は様々な形で続いており、未解決の謎が残っています。これは、量子力学の奥深さと複雑さを示す一例であり、今後も研究と議論が続けられることでしょう。

さらに近年の研究により、量子もつれはブラックホールの解明やホログラフィー原理といった理論物理学の最先端研究においても非常に重要な要素であることが明らかになっています。ニュートンの万有引力発見による古典物理学からアインシュタインによる相対性理論の確立、さらに量子力学の発展により相対性理論と量子論の橋渡しが進み、一歩一歩「大統一理論」に近づいているという実感を持ちます。いつの日にか万物の法則が全て明らかになるのかどうか興味は尽きません。

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