最近、「ゼブラ企業」という言葉を聞いた。近年スタートアップ界隈で注目されている社会的意義と持続可能な利益を両立させる企業を指す言葉らしい。すぐに思い出したのは、CSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)である。CSVの概念は、2011年にハーバード・ビジネス・スクールのマイケル・E・ポーター教授とマーク・R・クレイマー研究員が発表した論文で提唱され、広く認知されるようになった。この概念は、企業が本業を通じて社会的な課題を解決し、経済的な価値と社会的価値の両立を目指すというものである。つまりCSVは、企業が社会のニーズや問題に取り組むことで社会的な価値を創造し、その結果として経済的な価値も創造されるというアプローチである。これは、従来のCSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)とは異なり、慈善活動やボランティア活動として社会貢献を行うのではなく、企業の事業戦略として社会課題に取り組むという点が特徴である。
CSVの起源を遡ると、2006年にネスレが発表したCSRレポートにCSVの考え方につながる事例が掲載されていたことが紹介されている。具体的には、プレミアム・コーヒー用の豆の仕入れ先であるアフリカや中南米の貧困地域の零細農家に対して、農法に関するアドバイスの提供や銀行融資に対する保証などで支援することにより、高品質のコーヒー豆の安定供給を実現している。さらに高品質の豆を栽培した農家には価格を上乗せして支払うことでそのモチベーションを高め、「生産性の向上」と「農家の所得増加」をもたらす取り組みを進めたということである。
最近の事例では、「コカ・コーラがブラジルでの人材育成プログラムを通じて、地域社会の発展と自社事業の成長を両立した」や、「キリンが東日本大震災をきっかけに、復興支援と事業継続の両立を実現した」などが挙げられるが、多くの企業がCSRからCSVにシフトしてきている姿が見受けられる。
CSVとゼブラ企業は何が違うのであろうか?
そもそもゼブラ(シマウマ)の由来は白(利益)と黒(社会貢献)を共存させることを象徴していて、単に成長・利益の最大化を求めるのではなく、倫理性・地域貢献・従業員の幸福なども重視しているという意味合いがある。これはこれまで注目を浴びてきたユニコーン企業(Unicorn:時価総額10億ドル超の急成長スタートアップ)へのアンチテーゼとして、2017年にアメリカの女性起業家たちによって生まれたムーブメント「Zebras Unite」が起源だそうである。ユニコーン的な急成長神話に疑問を持ち、より持続的で倫理的なビジネスモデルを模索する声から生まれたものである。資金調達の面でも、ユニコーンはVenture Capital主導で急成長を促進するスタイル。一方、ゼブラはクラウドファンディングや自治体連携などで多様に資金を集め、社会と共生しつつ緩やかな成長を目指すスタイルである。ゼブラの特徴はグローバルより地域密着型、競争より共生、従業員や顧客との信頼関係に基づいた透明性と持続可能性を重視している点が特徴的である。
このように考えてくると、ゼブラとNPOやNGOは何が違うのだろう? 簡単に言えば、前者はあくまで営利企業で社会課題の解決と利益の両立を図る。後者は非営利団体で社会課題の解決が主目的である。やはり、持続的に社会貢献をしていこうとすれば、利益は必要という点は納得できる。なかなか人の善意だけでは活動は継続しないのも現実であろう。その結果と言えるかどうかわからないが、両者のHybrid型とも言えるソーシャルビジネス型NPOも増加傾向と言われている。
Zebra ManifestoによるZebra企業の原則は:
➀Both/And(利益と社会性の両立)
➁Shared Power(権限と成果の共有)
➂Built to Last(持続可能性)
④Serves Real Needs(本質的な社会的ニーズに応える)
の4つだそうで、一般企業にも参考になる志向ではないだろうか。以下に日本と世界のゼブラ企業のいくつかを紹介してみたい。
●クラダシ(東京都):事業内容は食品ロス削減に取り組む「社会貢献型ショッピングサイト」の運営。特徴は「まだ食べられる食品を特価販売し、売上の一部を寄付する」。つまり、食品ロスという社会課題をビジネスで解決しようという試み。
●シルバーウッド(東京都):事業内容は高齢者向け住宅「銀木犀」シリーズの運営、VR認知症体験など。特徴は、認知症の人が地域と共に生きる住宅モデルを開発し、福祉とまちづくりの融合を図る事業モデル。
●Patagonia(米国):事業内容は環境保護を最優先に掲げるアウトドアブランド。特徴は全利益を地球環境保護活動に寄付するなど、企業利益を社会的目的に結び付けている。
●Fairbnb(イタリア・スペイン):事業内容はAirbnbの代替となる「地域貢献型宿泊プラットフォーム」。特徴は利益の一部を地元の難民支援や都市緑化などの社会事業に再投資している。
世界では紛争が絶え間なく、格差も拡大の一途を辿っている。事業運営がいわゆる「金儲け」という単なる利益の拡大による資本家への高配当や権力者へのすり寄りだけでは世界は益々不安定化してしまう。解決困難な矛盾や理不尽に対して、若い人たちが果敢に挑もうとしている姿に感動するし、私も生きている限りは出来る範囲での応援・支援を惜しまずやっていきたい。もう20年ほど前のことと記憶しているが、優秀な新入社員が数年でNPOに転じたことがあった。彼女は今どこでどのような活躍をしているのであろうか。この文章を書いていて、ふと想い出した。


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