2024調達における現代地政学の視界

日本のテレビは相変わらず些末なニュースに終始していますが、世界は大きく変わっています。ロシアによるウクライナ侵攻は停戦の呼びかけにも関わらず丸2年になろうとしています。市民の死者は1万人を超え、世界各地に離散したウクライナ難民は633万人を超えていると伝えられています。一方、ガザ地区におけるハマスとイスラエルの戦闘は3か月目を迎え、報道では死者は2万人を超えているとのこと。そもそもはハマスが仕掛けた戦闘ではあるものの、死者の4分の3はガザ地区に住む女性と子供という悲惨なことで、イスラエルは世界的に非難を浴びています。この二つの戦闘の教訓はもはや国連は機能していないという看過できない重大な事実です。振り返れば、世界中を混乱の渦に巻き込んだ新型コロナのパンデミックもWHOの無策(無力)により、終息までに丸3年を要しました。先進国と新興国のワクチン格差が大きな問題として取り上げられていましたが、蓋を開けてみれば、人口百万人あたりの死者数は英米伊がトップ3で、上位9位までは欧州・北米・南米が占めています。データ精度の問題も問われてはいますが、アフリカの死亡率は先進国に比べて低いのです。高齢率と死亡率はどの国でも相関が取れており、結局は抵抗力の弱いお年寄りが亡くなったと結論付けてもいいのではないかと思います。ワクチンは弱毒を体内に入れるわけですから、若い方は抵抗力があるので問題ないと思いますが、お年寄りから先に打つというのは却って危険なのではないかと私は当初から危惧していました。ウイルスを過度に恐れすぎて却って社会的被害が大きくなったのではないでしょうか。そもそもウイルスと人間は共存してきており、清潔すぎるのは却って抵抗力を弱める結果となっています。

経済安保に目を向けると、数年前から米中対立の構図は色々な場面で語られてきました。落ち着くところはさらなるデカップリングの進行ではなく、選択的デカップリングということでしょう。米中の技術格差はまだまだ米国優位ですから、具体的には米国及びその同盟国から中露などの専制国家(国際機関で合意され定められた国際法を無視する)への供与を禁止または制限するということです。品目としてはAI、量子コンピューティング、生物遺伝子工学、先端半導体、軍事転用可能な技術や素材であろうと思います。
しかしながら、今でも北朝鮮やロシアには経済制裁が科されているものの、様々なルート(瀬取りや第三国ルートからの迂回)を通じて必要な物資を集めています。さらにサイバー領域では暗号資産や外貨を盗んだり、敵対国にサイバー攻撃を仕掛けたりして揺さぶりをかけています。攻守におけるハードウェアも強化する必要がありますが、宇宙開発も含め新しいテクノロジーの進化に応じた国家国民の領土と生命と財産を守る体制強化が求められます。

2024年は選挙イヤーです。インド、ロシア、インドネシア、メキシコでは現政権の継続あるいは現政権の政策が引き継がれる可能性が高い国です。ですから、国情も「現状維持」が予想されるため、調達先として大きな変化はないと考えて良いだろうと思います。一方、南アフリカ、パキスタン、スリランカ、バングラデシュなどはリスクの高い国として注目する必要があります。南アフリカは電力不足で現政権の支持率は低く、パキスタンやスリランカは経済状況の悪化から政治への不満が高いため、社会不安が再燃する恐れがあります。バングラデシュは与野党対立が激しく予断を許しません。それらの国々の中には「グローバルサウス」のキープレイヤーとして注目されている国々もあり、親米、親中、中立それぞれのパワーバランスに影響を与える可能性があります。

年明け1月の台湾総統選挙の行方は、東アジアの安定に大きな影響を与え得るし、6月の欧州議会選挙も右傾化がどの程度進むのか注目されます。日本でも7月には都知事選挙、9月には自民党総裁選挙が行われます。岸田首相がどの時点で解散総選挙に打って出るのか、自ら辞任する道を選ばざるを得ないのかはわかりませんが、世界的にはほぼ注目を集めることはないでしょう。それだけ政治経済共に日本は埋没しています。残念ながら、それらを意識した調達活動を行っていく必要があります。そして11月には注目の米大統領選挙。英国総選挙も年内に行われる可能性が高いと言われています。

1991年のソ連崩壊から、中国が米国と肩を並べんと台頭するまでの約30年弱、パンアメリカーナ(アメリカ主導のルール下)のもと、経済の自由化によるグローバル調達を享受できた時代は明らかに終わりを告げました。しかし、その間においても経済的には自由貿易という建前の下ながら、米vs欧、米vs日のせめぎ合いは多々ありました。1987年の欧州主導によるISO9001発行、今でも続くCOPは1992年採択、1999年ユーロ誕生、1986年から10年続いた日米半導体協議。アメリカは2001年の9.11から「テロとの戦い」をアフガニスタンやイラクで展開をし、結果20年間の長期戦により体力を消耗してしまい、覇権国の座から滑り落ちようとしています。

世界の警察官の座を自ら降りたアメリカは自国ファーストを掲げ、名実ともにGゼロ時代となった現代はTPP、RCEPなどの多国間経済連携協定が維持拡大されるのか難しい局面となるでしょう。、友好国との二国間FTAやEPAが中心となっていくのだろうと思います。日本にとってはASEANとのさらなる連携が大きな課題でもあり、期待でもあります。しかしながら、明らかなことは調達活動において、もはや政経分離はできないこと、企業間の取引や連携に関して地域間・国家間の力学が大きく影響することは疑いようもありません。そして、このような時代は数十年続くであろうということを前提に調達戦略を構築していくということです。

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