
「ブルシット・ジョブ──クソどうでもいい仕事の理論」(デヴィッド・グレーバー著)
アメリカの人類学者デヴィッド・R・グレーバー氏による著書「ブルシット・ジョブ──クソどうでもいい仕事の理論」は個人的に言えば、ローレンス・J・ピーターの「ピーターの法則」(レイモンド・ハルとの共著)以来の社会学領域における名著である。残念ながらグレーバー氏は2020年9月享年59歳で亡くなってしまったが、遺作「The Dawn of Everything: A New History of Humanity」が昨年出版されている。Bullshitはアメリカにおいてはほとんど放送禁止用語扱いの言葉ではあるが、その言葉を敢えて用いることによって現代の多くの仕事がクソどうでもいい仕事になっていることを強烈に印象付けている。 18世紀半ばから19世紀にかけて起こった産業革命によって多くの肉体労働が機械化され、人間は多くの苦役から解放された。家庭内においても家事が洗濯機、掃除機、ミシン、炊飯器、電子レンジ等の家電製品によって軽減された。肉体労働に従事していた男たちは新しい職場を求め、うまく生活の基盤を作った人もいれば、転職に成功せずに暮らし向きを悪化させた人もいた。多くの時間を家事に奪われていた...