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大国の盛衰

6年ぶりに米中首脳が直接会談を行ったが、時間は1時間40分と比較的短いものだった。中国の習近平国家主席と会談した米トランプ大統領は会談後、対中追加関税の引き下げを発表し、レアアース(希土類)をめぐる「障壁」が解消されたと述べた。習氏も中国国営メディアに対し、「主要な貿易問題」の解決に向けて合意したと語った。お互い面子を保った形ではあるが、結果は中国がレアアースの輸出規制を1年間見送ることで、米国の100%の追加関税を回避した。それ以外では米国がフェンタニルのアメリカ流入について対策が不十分だとし、中国からの輸入品に20%の追加関税を課していたが、これを10%に引き下げると米国が妥協し収まった。アメリカ産大豆の輸入拡大でも合意をし、トランプ氏は「10点満点中12点だ」と自画自賛したものの、目的とする国際貿易の不均衡は全く進展しなかった。明らかに中国側が優位を保って会談が終了したという印象である。 トランプ氏がアメリカ・ファーストを標榜し、多くの国際機関からの脱退を決定している。今年1月にはWTO、パリ協定、7月にはユネスコから脱退し、さらに国際人権理事会からの離脱や、国際組織への拠出金削...
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北イタリアを訪れて

イタリアはご存じのように長靴の形をした共和制国家で、20の州により地方行政が営まれています。それぞれ独自の文化と歴史的背景を持っていることを少し学ぶことができました。今回の旅はローマに次ぐ第二の都市ミラノを中心とするロンバルディア州を起点に世界遺産ドロミテ街道を辿ってみました。 イタリアはその文化や歴史的背景から北、中央、南に三分されます。ファッションの都として有名なミラノや、水の都ヴェネチアを含む北イタリア。首都ローマや、ルネッサンスの中心地で芸術の都フェレンツェを含む中央イタリア。そしてピザ誕生の街ナポリやシチリア島を含む南イタリアとなります。 これまで主に南イタリアの豊富な魚介類料理を楽しんできた私にとって、今回提供された北イタリアの料理の数々は、北と南でこんなに違うのは何故だろうという好奇心を沸き立たせるものでした。南イタリアは地中海に囲まれていて温暖な乾燥地帯、魚介の持ち味や野菜の風味を生かし、オリーブオイル・レモン・ハーブによって軽やかで香り高い味付けに特徴があります。もちろんパスタやピザは代表的な料理ですが、トマトやニンニク、香草、酸味を効かせるなど、地域の伝統を大切にし...
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現地ガイドを通じて見たカザフスタン~キルギス旅行記

成田から仁川経由でカザフスタンの旧首都アルマティ空港に到着した。航空会社はアシアナ航空だが、来年にはこの便はなくなり、カザフスタンの航空会社であるエア・アスタナが日本との直行便を運航するらしい。そうなれば、日本と中央アジアの距離感は物理的にも心理的にもグッと近づくものと思われる。 カザフスタンは中央アジアの大国で、面積は世界No.9、人口は1900万人で、石油や天然ガス、ウラン等の資源に恵まれGDPにおいても中央アジアの60%を生み出す、比較的裕福な国である。ユーラシア大陸の中央部に位置し、南西は世界最大の湖カスピ海に面しており、アクタウは唯一の不凍港である。国土の大部分は砂漠や乾燥したステップ(草原)であり、草原国と言っていい。人口の7割はイスラム教スンニ派で、飲酒はOKなことから「なんちゃってムスリム」と言えなくもない。17%ほど居るロシア人は主にロシア正教信者であり、モスクと教会の数も人口構成を表しているように感じる。 翌日、最もシェアを取っていると思われるHyundai製のSUVをいかついロシア人ドライバーの運転で北西に180㎞走り、タムガル峡谷へ向かう。紀元前14世紀以降に数...
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デジタル時代の民主主義

7月20日に投開票が行われた参院選では自民・公明の与党の苦戦が予想される中、後半には組織票の踏ん張りで改選47議席を確保したものの、石破首相が目指していた自公過半数には届かず、与党が両院で過半数を失う史上初の両院少数政権に陥りました。 これまでの通例からすれば、即首相辞任という状況ですが、石破首相は日米関税交渉合意を着実に実行していくとか、いつ大地震がやってくるかわからないとか、政治空白を避けなければならないとか、理由にもならない理由を並べて続投に固執しています。 一方で、「石破辞めるな!」のデモが数百人規模で行われ、ほぼ「安倍政権を許さない!」とプラカードを上げていた人たち、つまり保守台頭を恐れるリベラル活動家による前代未聞の自民党総裁支援という状況を生んでいます。しかしながら、保守本流を掲げていた当の自民党は、今や保守とリベラルの混在カオス政党になり、しっかりとした輪郭がなくなってしまった単なる利益分配型政党になり下がっています。 自民党の比例当選者の名簿を見ると、全国郵便局長会・全国建設業協会(この2枠は特定枠として最優先)・日本医師連盟・全国農政連・日本看護連盟・神道政治連盟・...
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ゼブラ企業

最近、「ゼブラ企業」という言葉を聞いた。近年スタートアップ界隈で注目されている社会的意義と持続可能な利益を両立させる企業を指す言葉らしい。すぐに思い出したのは、CSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)である。CSVの概念は、2011年にハーバード・ビジネス・スクールのマイケル・E・ポーター教授とマーク・R・クレイマー研究員が発表した論文で提唱され、広く認知されるようになった。この概念は、企業が本業を通じて社会的な課題を解決し、経済的な価値と社会的価値の両立を目指すというものである。つまりCSVは、企業が社会のニーズや問題に取り組むことで社会的な価値を創造し、その結果として経済的な価値も創造されるというアプローチである。これは、従来のCSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)とは異なり、慈善活動やボランティア活動として社会貢献を行うのではなく、企業の事業戦略として社会課題に取り組むという点が特徴である。 CSVの起源を遡ると、2006年にネスレが発表したCSRレポートにCSVの考え方につながる事例が掲載されていた...
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パナマの憂鬱

パナマといえば、パナマ運河を真っ先に思い浮かべるであろう。太平洋と大西洋を結ぶ海の要衝で1日36隻150万トンもの物資が通過する。スエズ運河やキール運河と並んで、世界三大運河である。スエズ運河は地中海と紅海を結ぶエジプトにある運河だが、イエメンの親イラン武装組織フーシ派による紅海の船舶攻撃で航行の自由が脅かされている。キール運河は日本にはなじみが薄いが、北海とバルト海を結ぶドイツにある運河である。パナマ運河は米中対立の矢面に立たされ、CKハチソン(香港系)所有の港湾事業を米系企業連合に売却を計画したものの、中国当局が審査を強化したため、実現に不透明感が出ている。世界物流のリスクは地政学リスクを伴って高まる一方である。 パナマの憂鬱の一つ目は、運河の水不足である。2023年には過去100年で最大の干ばつと言われるほど降雨量が減少しており、運河の通航に多大な影響を与えている。というのも、パナマ運河の通過点にはガトゥン湖という標高26メートルの湖があり、これを超えなくては通航できない。この湖の水を使用しながら、一つの閘門(こうもん)ごとに8~9メートル程度の水位調整を行いながら、3つの閘門を...
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激動期それぞれの日中3姉妹

【浅井の3姉妹】 戦国時代、北近江に浅井長政という大名がいた。浅井には今も歴史に名前を残す3人姉妹がいる。茶々、初(1歳下)、江(ごう:さらに3歳下)である。浅井は織田信長の妹で戦国一の美女と言われたお市を妻にして同盟を結んだが、1570年の金ヶ崎の戦いで信長を裏切り、その後も対立が3年続いた。最終的には1573年の小谷城の戦いによって長政は自害(享年29)を余儀なくされ、3姉妹の兄・万福丸は信長の命により羽柴秀吉によって串刺しにされたという(享年9)。 お市は3人の娘とともに藤掛永勝によって救出され織田家に引き取られるが、1582年の本能寺の変により信長が討たれると、お市は信長の重臣柴田勝家と秀吉との協議(取り合い?)により結果、勝家のもとに嫁ぐことになる。ところが、その翌年には勝家と秀吉の対立が先鋭化し、賤ヶ岳の戦いで勝家が敗れることになる。最終的には覚悟を決めた勝家は、お市に越前北ノ庄城外退去を勧めたものの、それを拒否したお市は勝家とともに自害する(お市享年37)。 両親を失った3姉妹は富永新六郎という武士によって、両親を死に追いやった憎き秀吉のもとに届けられる。当時50歳を目前...
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アイスランドの歴史~日本との比較を交えて~

アイスランドを初めて訪れた。昨年から今年にかけて太陽の活動が盛んなこの時期に肉眼でオーロラを観ることがその目的である。その目的は初日の夜は残念な結果だったが、幸運にも二日目の夜にして早くも達成することができた。しかし同時にかつ意外にも、人間の眼より今やカメラの性能の方が上回っていることを気付かされた日でもあった。これまでも動画静止画問わず、沢山のオーロラ映像を観てきたが、それらはカメラ性能とカメラマンの技術によって創り出された、ある種アーティフィシャルな世界のものであったことに気づかされたということである。 とは言うものの、今回のアイスランド訪問によって新たな気づきも多くあり、大変有意義な旅であった。日本とアイスランドには多くの共通点がある。両国とも火山大国であり、温泉文化が発展している。世界最大の露天風呂施設「ブルーラグーン」は世界中からの観光客で賑わっていた。両国とも周囲を海に囲まれており、豊富な水産資源の恩恵を受けている。捕鯨に関する考え方や取り組みも共通している(アイスランドは1992年IWC国際捕鯨委員会を脱退、2002年に復帰、2006年商業捕鯨再開。日本は長きに渡って科学...
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北朝鮮のお財布事情

ロシアによるウクライナ侵攻から丸3年、これを契機に中露北が結束を強めていることはこの三国と近距離で対峙している日本にとって好ましからざることである。G7によるロシア経済制裁の効果を無力化するかのように、水面下で中国はロシアに経済的な支援を行っている。北朝鮮は砲弾や装備の提供に加えて、1万1千人以上の兵士をウクライナ紛争の前線に送り出している。北朝鮮は、その見返りに食料や燃料・外貨・軍事技術など得ているとされている。2月24日には中ロ首脳が電話会談を行い、習近平主席は両国関係の強さを「両国の関係はいかなる第三者からも影響を受けることはない」と強調している。北朝鮮と中国の関係は現在微妙な状況にはあるが、米中対立下において、中国が北朝鮮を外交カードとして温存しておきたいという姿勢は変わらないであろう。 最近の北朝鮮に関するニュースを列挙してみると: ●2月28日:警視庁の鎌田徹郎副総監が「北朝鮮はサイバー攻撃で窃取した暗号資産を核・ミサイル開発の資金に充てていると指摘されていて、暗号資産をめぐる犯罪は治安上の課題にとどまらず、安全保障にも関わるもので、大変憂慮すべき状況だ」と述べた。 ●2月...
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弱肉強食時代の再来、どうする日本

1月20日、ドナルド・トランプ氏が第47代大統領として正式に返り咲いた。2024年11月の大統領選挙で勝利して以降、トランプ氏は正式就任を待たずに矢継ぎ早に新政権の政策を発表し、世界中がそのSNS投稿などに注目している。なぜなら、世界のリーダーを実質上降りたとは言え、アメリカがいまだにNo.1の大国であることを多くの国が認識しているからである。その政策の中身は実現可能性を疑うものもあるが、不動産実業家らしく、外交交渉においても持ち前のディール(取引)で事を進めようとする氏の手法が明確になってきている。 これまでの政権と明らかに違うのは、一貫した「フィロソフィー」が見当たらないことである。それでは何を基軸に据えるのか? それはアメリカあるいはトランプ氏自身にとって損か得かの「損得勘定」に依拠していることであろう。時にビンボールを投げ、相手をのけ反らせておいて、落としどころを見極めるスタイルである。 違法移民の強制送還を早速始めているが、コロンビアが強制送還された移民を乗せた米軍機の受入を拒否したことで、トランプ大統領は全輸入品に25%の関税を掛け、政府高官らの渡航禁止とビザ取消、財務・銀...