日本人アスリートの世界進出を喜ぶ

大谷翔平のスーパースターぶりは改めてここに記す必要がないほど、世界中の野球ファンや日本人には知られるに至った。このスーパースターは誰と結婚するのだろうと野次馬根性に火が付いたのは私だけではあるまい。メディアの報道を過熱させることなく伴侶を公開できたのは大谷の人間性と相まっての奇跡の技と言ってもいいのかもしれない。

大谷翔平が花巻東高校1年生時に立てた目標達成表「マンダラート」は有名になり、ビジネス書に「仕事に活かせる3つの教え」等として引用されるほどである。
大谷マンダラートの最終目標は8球団からドラフト1位指名を受けることであった。そのために「コントロール」「キレ」「スピード160km/h」「変化球」「体づくり」の5項目に加え、「メンタル」「人間性」「運」の3項目を記している。さらにこの8項目の達成のために必要な詳細項目をそれぞれの8項目に記載している。
たとえば、「メンタル」では「仲間を思いやる心」や「頭は冷静に心は熱く」。「人間性」では「愛される人間」「感謝」「礼儀」「継続力」「信頼される人間」など。「運」に至っては「ゴミ拾い」「道具を大切に使う」「プラス思考」「応援される人間になる」「本を読む」など悟りの境地に近づく観音かと思わせるほどの思考を巡らしている。実際、球場でちょっとしたゴミをさりげなく拾う姿は美しいし、これを機にアメリカ人にもそれを真似てほしいと個人的には思う。

また、同じく大谷が高校時代に記したものとして人生設計表がある。一部を紹介すると、「18歳メジャー入団」「20歳メジャー昇格15億円」「23歳WBC日本代表」「26歳結婚」「28歳男の子誕生」「37歳長男野球を始める」「38歳結果が出ず引退を考え始める」「40歳引退試合でノーヒットノーラン」「41歳日本に帰ってくる」「42歳~56歳日本にアメリカのシステムを導入」「58歳岩手に帰ってくる」「59歳リトルリーグの監督になる」「65歳メジャー年金3000万円」「66歳~69歳世界旅行」「70歳~毎日スポーツを続けて元気で明るい生活にする‼」。高校生らしい子供っぽさもあり、劇画チックでもあるが明確な目標をもって臨んでいるあたりはマンダラートと一致している。

やや本人の時間軸からすれば遅れ気味かもしれないが、日本ハムの栗山監督に説得される形でまず日本の球団に入って、プロ野球の経験を積んでからMLBに行ったことは良かったのではないかと思う。結果的にはメジャーで二刀流を認めさせることになって、エンジェルスで活躍したのみならず、MLBに「大谷ルール」(先発投手が指名打者DHを兼務できる)を適用させたことに繋がっていると思う。日本人選手がMLBでプレイをするだけでもハードルは非常に高いが、そのMLBにルール変更をさせるというのは、ある意味日本人プレイヤーが本場のベースボールを凌駕したとも言えるのではないだろうか。

大谷や菊池雄星を花巻東高校で育て上げた佐々木洋監督はあまりメディアに登場しないが、「頭髪を丸刈りにしないといけない理由が見当たらない」として、部員に対しての丸刈りの強制を2018年に廃止したことでも知られる。その佐々木監督の息子・佐々木麟太郎(明らかに勝海舟の幼名から取っていると思われる)は高校史上最多の通算140本塁打を放った大型スラッガーであった。卒業後の選択肢として日本の大学、アメリカの大学、日本のプロ野球、マイナーながらMLBなどの選択肢があったが、名門スタンフォード大学への進学を決めた。決断に当たっては先輩菊池雄星の助言や父でもある監督から「日本地図だけで選ぶのではなくて世界地図で大学を選んでもいいんじゃないか」と後押しをもらった。スタンフォード大では球場にカメラが7台あり、練習の様子などをデータ化して週に1度送られてくるとのことで、「さほど東京の大学とアメリカに行くのと違いない。あまり心配も寂しさもない」と父は語っている。野球における技術だけでなく、科学技術進化も日本人の選択の幅を広げていることが窺える。過剰に過去に囚われる必要はなくなっている。麟太郎の決断も外野の日本人からすれば疑問符が付くかもしれないが、若者の世界への挑戦が少なくなっている傾向を感じる筆者としては心より応援したい気持ちでいる。

先日のMLB韓国での開幕戦ではダルビッシュ有と大谷翔平の初めての対決があったが、ダルビッシュは大谷翔平の子供時代の憧れの存在「一番好きな投手」であった。そのダルビッシュはWBC試合前に早々にチーム入りして多くの後輩たちの質問に惜しみなく答えて自分の技術を教えていた。そのダルビッシュが刺激を受けて目標にしていた選手は「平成の怪物」松坂大輔である。そういった数々のMLB日本人選手の先駆けとなったのが「トルネード投法」の野茂英雄である。近鉄球団と指導法やフォーム改造などの件で確執があった野茂は1995年に近鉄を退団する(本人曰くメジャーに行きたかったわけではなく、近鉄を兎に角出たかった)。ドジャースとのマイナー契約を結び、それまでの年俸1億4000万円から960万円になった。その後も自分のスタイルを堅持し、MLB8球団を渡り歩いて13年間も活躍したのはご存じの通りである。余談ではあるが、ハリウッド映画「メジャーリーグ2」で異色の日本人選手役として登場したとんねるずの石橋貴明が着けていた背番号16を野茂が選んだというのは知る人ぞ知る話である。

野茂の例を持ち出すまでもなく、いまだに日本社会は管理志向が強いと感じる。個性の時代と声高に叫んでいる割には、同調圧力が強い。日本の内部変化も徐々に進んではいるが、日本人アスリートの多くは世界を目指して頑張っている。アスリートのみならず様々な分野で世界を目指してほしい。Japan as No,1の時代には世界初、世界一が数多くあった。

現役メジャー選手から現役最高選手と評されるほどの大谷翔平であるが、こういった先輩たちの礎や周辺の人たちの支援や助言があってその位置に立ったことを十分知っていることと思う。水原一平氏の事件など精神面の揺らぎもあろうかと思うが、野球一筋に専念できるよう願っているし、応援もしたい。開幕戦からまだホームランが出ていないが、過去の有名選手のデータを見ても、結婚した年の成績は良くないことが数字で表れている。10年契約の長丁場、自分自身に自信をもって活躍してください。多くの日本の若者が世界に打って出る勇気をこれからも与えてほしいと思っています。

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