イスラエルの人口増加

2020年3月2日 at 10:30 午前

イスラエルはシオニズム運動(ユダヤ人・ユダヤ教・ユダヤ文化の再興)を経て1948年に建国された国である。面積は四国を少し大きくした程度の小さな国である。人口は900万人を超えているが、過去30年の間に450万人から倍増している。一人当たりのGDPは4万ドルを超え、日本より上位に位置している先進国家である。
イスラエルのイメージはパレスチナをめぐってアラブ人との戦闘がずっと続いているというのが一般的であろう。時折TVで観るイスラエルのネタニヤフ首相は強硬で好戦的なイメージすら感じられる。イスラエル建国70周年を迎えた2018年に米トランプ大統領はエルサレムをイスラエルの首都として正式に認めると発表し、在イスラエル大使館をテルアビブからエルサレムに移転した。自身の支持基盤(正統派ユダヤ教徒や福音派キリスト教徒)に向けた選挙公約を守った形だが、パレスチナ自治政府のアッバス議長は「嘆かわしい」と呼応した。ネタニヤフ首相は「歴史的」な政策転換だと歓迎したが、式典でのツーショットは中東和平を脅かすものとして多くの人々に映ったであろう。
折しも新型コロナウィルスの感染拡大で、日本では全国の小中高等学校が休校となる事態になった。共働きの家庭やシングル・マザー/ファーザー世帯は対応に苦慮し、学童保育の存在が急にクローズアップされた。給食用に栽培していた野菜が行き場を失い、マスク不足はいつ解消するのかといった不安の只中に今の日本はある。
イスラエルも共働き世帯が多いが、合計特殊出生率は先進国の中では際立って高く3.11である。日本のそれは1.44と半分にも満たない。イスラエルの特徴として、高い教育を受けた女性が多くの子どもを産むという傾向があると言われる。これには勿論、ユダヤ教の超正統派(ユダヤ教の中の1割弱)の存在が貢献しているものの、宗教や律法にあまり縛られない世俗派(同4割強)にも同様の傾向が見られるとのことである。イスラエルの宗教分布をみると、ユダヤ教が75%と当然多数派を占めるが、イスラエルは宗教の自由を認めているので、イスラム教徒も17%と相当数いることに私は驚かされた。
イスラエルの高出生率の理由を、日本にも造詣の深いニシム・オトマズキン国立ヘブライ大学教授は伝統、移民、政策の3つをもって説明されているが、政策については異論があったので、日本イスラエル親善協会ビジネス交流委員 新井均氏のコラムを転用した。
1)伝統:ユダヤ人は子どもを沢山持つことは旧約聖書にある神の戒律に従うことと信じている。過去2000年間にわたってユダヤ人は小さなコミュニティーで暮らし、ある時には絶滅の淵に立たされた(ホロコーストでは、当時のヨーロッパのユダヤ人の3分の2にあたる600万人を失った)。子どもを沢山産むことはコミュニティーの存在につながる大事なことという認識が深く存在する。日本においてわずかながらある出生前診断はイスラエルでは先例がない。つまり産むこと自体に意味や価値を見いだしているという別の准教授の言葉を引用している。
2)移民:イスラエルは世界中に散らばっているユダヤ人を「祖国」に帰って来させることを目的につくられたので、重要政策である移民は奨励され、毎年何万人もの移民を受け入れてきた。1990年代、旧ソ連体制の崩壊を受け、100万人ものロシア系ユダヤ人移民をわずか10年間で受け入れた。移民の多くは高い教育を受けており、労働市場において優秀な就労者が集積されていった。ユダヤ人の哲学には、迫害の歴史に遭っても、脳内に納められた知識だけは誰にも奪われることがないといった考えが受け継がれている。教育熱は非常に高い。アルベルト・アインシュタイン、スティーブン・スピルバーグ、アラン・グリーンスパン、マイケル・ブルームバーグ、ジョージ・ソロス、エスティ・ローダ、ラルフ・ローレン、マイケル・デル、ラリー・エリソン、サーゲイ・ブリン全てユダヤ人である。
3)政策:3歳からの公立幼稚園費用は無料。7つある大学は国立で、文理系問わず年間約35万円の授業料(文学部でも医学部でも同額)。子ども1人から6人まで子ども手当が支給されるが、金額は日本とそうは変わらない。実態は両親の家の近くに住み、祖父母の経済的、労力的支援を得ている家庭が一般的なようだ(新井氏)。40歳以上の女性が子どもを産む割合が世界で最も多い国の一つであることは政策と家族協力があってのことだろう。
イスラエルは未だにモザイク国家である。現在20数%のイスラエル・アラブ人口が過半数を超えればユダヤ人国家ではなくイスラム国家となってしまう。したがって、たとえ世俗派のイスラエル人であってもユダヤ人口増加率がアラブ人口増加率を上回らない限り、ユダヤ人国家は存続できないという恐怖観念を抱えているという。ホロコーストの経験から、ユダヤ人には「生き残らねばならない」という集団的記憶が埋め込まれていると新井氏は言う。島国で比較的安寧に暮らしてきた日本人には理解しきれない歴史がユダヤ人には刻まれている。