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Conscious Capitalism

「世界でいちばん大切にしたい会社」コンシャス・カンパニー(翔泳社)は多くの示唆に富む好著である。ここで語られるのは、ホールフーズ・マーケットの創業CEOであるジョン・マッキー氏が自らの体験に基づき自社を「人を幸せにする経営」に変貌させていった挿話と、短期的利益重視に立った経営と長期的視点に立った経営では後者が好業績生むという数多の実例である。冒頭では、この四半世紀資本主義は正しい軌道から外れてしまい、歴史上最も富を作り出せる素晴らしい仕組みであるにも関わらず、ほとんど悪者として非難の的になってきたという認識から始まる。労働者を搾取し、消費者を騙し、金持ちばかりを優遇して貧乏人には冷たく当たって不平等を作り出し、個性を認めず、コミュニティを分断し、環境を破壊する元凶として描かれがちな資本主義。企業家や経営者は利己心と欲得で動くものとレッテルを張られ、時に罵詈雑言を浴びせかけられる存在となってしまった。筆者は「縁故資本主義」(様々な規制を政府が作り、政治とコネがあるビジネスが有利となって正当な競争が阻害されているもの)がその代表例で、その土壌の広がりが誤解を生んでいると指摘している。日本の...
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財政再建はドイツには出来て日本には出来ないのか

ドイツが2015年に財政均衡を実現し、赤字国債の発行を46年ぶりに停止する見通しとなったと7月3日にマスコミ各社から報道された。2日に閣議決定された予算案では好景気で税収が膨らんで財政赤字が消滅。借金をしなくても歳出が賄える状態になるとのことである。 一方、日本政府は、2013年6月に骨太方針(経済財政運営と改革の基本方針)を閣議決定し、中長期の財政健全化に向けて2020年度までに黒字化するという財政健全化目標を掲げた。目標通りいけばドイツに5年遅れということになるが、本当に可能なのかどうか不安視するのは私だけであろうか。 ドイツの単年度財政収支は実は2012年から黒字転換しており、政府総債務残高も2012年をピークに減少し始めている。GDP比率で見ても1992年の40%からジリジリ上がり2012年には82%まで上昇したが、今年は70%台半ば、2017年には70%を割り込む見込みと報じられている。 日本の政府総債務残高のGDP比率は今年242%、ほぼずっと一貫して上昇し続けている。日本が高度成長を謳歌している時期には資産も増加し、負債が増えても大きな問題にはならないが、日本のそれが80...
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100年前に起きた第一次世界大戦から今日まで

1914年6月サラエボでオーストリア=ハンガリー帝国の皇太子夫妻が暗殺されたことを引き金に起きた第一世界大戦は第二次世界大戦に比べて日本人の記憶に実感としてほとんど残っていないのが実情であろう。 しかしながら、その時代背景は今日本を取り巻く状況に酷似している。その意味で今一度第一次世界大戦を考察してみることは意味深いことであると思う。ひとつは今でもボスニア・ヘルツェゴビナでは英雄視されるボスニア系セルビア人の暗殺実行青年ガヴリロ・プリンツィプの存在。初代韓国統監を務めた伊藤博文を暗殺した安重根の記念館が今年1月に中国のハルビン駅に開設されたことを想起させる。ガヴリロ・プリンツィプのオーストリアでの存在は、身ごもっていた皇太子妃をも殺した残虐な人間として憎しみの対象となっている。暗殺グループは7人で構成されていたといいガヴリロ・プリンツィプは下っ端の実行犯。決して発作的に銃弾を向けた個人の単独事件ではない。それまでセルビア人の感情を逆なでする事柄が色々あったと記されている。だからといって暗殺が正当化されるはずもないが、事が起こってからではもう遅い。事件が起こった理屈付けは必ずできる。正当...
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音楽遍歴

ヒトや動物が外界を感知するための感覚機能は、代表的なものを古くから五感と分類しています。視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚がそれですが、犬は人間の100万倍の嗅覚を持つとも言われ、生き物の中でもその能力に大きな差が認められています。犬の聴覚はこれも人間の16倍あると言われ、視覚は色の識別力は低いものの、動体視力は抜群です。一方、味覚は人間の1/6しか無いそうなので、あまりグルメの食事を与えても飼い主が想うほど、犬は有難味を感じていないのかもしれません。味覚を感じるのは味蕾という感覚器ですが、この味蕾の数は歳を取るごとに減少していき、成人の味蕾の数は乳幼児の半分だそうです。つまり乳幼児の方が味に敏感で、子供の頃の好き嫌いの多さは感度が良いということ。大人になって色々なものが食べられるようになるのは味覚の感度低下という側面もあるようです。 さて、標題と話がずれていってしまいましたが、今回は個人的な音楽遍歴を(勝手に)ご披露しようかと思い、筆を取りました。個人的に思うに昔よく聴いた音楽を耳にすると、すぐにその時代に想いを馳せることができて、タイムスリップ気分を味わえます。そういった意味ではこれも多...
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印刷技術発展の歴史

現存する世界最古の印刷物は日本にあります。称徳天皇が政治を任せた道鏡が西暦770年に国中のお寺にお経を広めるために配布させた経典の中に入れた「陀羅尼経」です。ろくろ焼きの百万塔に木版か銅版に彫った文字を紙に刷り取ったものが6年間かけて100万巻も刷られたということです。当時飢饉や疫病の流行、戦乱による社会不安が背景にあり、これを鎮めようと仏教を活用し(鎮護国家)、全国に国分寺を建て、大仏造立の詔も出しています。この頃は遷都も数回行われており、その当時の混迷ぶりが想像されます。冒頭に紹介した「陀羅尼経」を10万巻ずつ10の国分寺に納めました。その一部が4万巻余り今に残っていて世界最古となっています。 その後の日本では300年ほど印刷という技術は全く活用されませんでした。学問は文字が読める一部の偉い人達だけのものでしたので、沢山印刷しなければならないという必要性がなかったからです。その後も日本での印刷技術は大きな発展はありません。必要なものは手で書き写せばよいということだったようで、今でも精神修養の写経は綿々と受け継がれてきています。 やっと江戸時代になって商業が盛んになり、町民たちの間で...
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男たちの旅路

前出の「社会学の基礎知識」という大学時代の教科書を読み返そうとパラパラ頁をめくったら、一枚の新聞の切り抜きが出てきました。30数年前に買った本ですから、全てのページが茶色味を帯びていましたが、その切り抜きが挟まっていたページは新聞の型がそのまま転写し、濃茶色になっていました。そのページには「核家族化に伴う老人問題とその対策」とあり、その間から出てきた切り抜きの題名には「TVドラマ『シルバーシート』に寄せて」(役に立つ、立たないではなく、老人の過去を大事に)とあります。 TVドラマというのは、今でも鮮明に覚えていますが、鶴田浩二主演の「男たちの旅路」です。若かりし水谷豊や桃井かおりが24歳で共演していました。まだ家庭用ビデオは発売されたばかりで高価でしたから、放送時間を見逃さないようにTVの前に陣取っていたことを思い出します。脚本は山田太一で当時43歳。ちなみに鶴田浩二は52歳(今の私より4つ若いんだ!)。放送は76年から82年まで全13話とウィキペディアにありますので、全部見逃さずに見たのではないかと思います。鶴田は最初このオファーを断ったそうですが、その後山田との面会をプロデューサー...
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組織と個人

大学では法学部政治学科に在籍していました。卒論は東大新人会という優秀な人材を多く輩出した組織の宮崎龍介という人物研究でした。ゼミの中ではそもそもこの団体から各界に多くの優秀な人材が輩出したのは何故なのかという課題意識からスタートしていました。当時の歴史的背景、価値観、その組織の強みや思想の基盤あるいは思考メカニズムはどうだったのかが研究テーマの底流にありました。個人研究の過程で様々な人との交わりを通じて生きてきた一人の人生をなぞり研究することは、自分の中で「人間学」そのものを勉強したなあと今でも思い返します。そしてその後私自身が社会で生きていく上での礎になったと思います。 人は一人では生きていけないですし、何らかの形で仲間を作り、お互いに影響しあい、その結果として共通の目標を持って事業を始めたり、あるいは目標は異なるもののお互い刺激しあい、異なる意見を交わしあい、思考を繰り返しながら成長していく社会的動物です。そういう意味で人間が互いに影響しあい相乗効果を上げるといった観点から組織運営というのはひとつの科学なのだと思います。一人よりは二人、二人よりは三人、三人より十人、どんどん効率が良...
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人間とチンパンジーの違い

京都大学霊長類研究所に松沢哲郎博士という方がおられます。画面に現れた9個の数字を0.5秒で記憶して、それを順序通り再現タッチできるというチンパンジーを映像でご覧になった方もいるのではないでしょうか。博士の研究の一端に触れる機会がありましたので、ちょっとご紹介をしたいと思います。博士はチンパンジーの知性の研究を通して、人間との比較からある特徴について仮説を立てておられますが、それが私の興味を引きました。 (昨年は文化功労者に選出されました) 人間とチンパンジーは500万年前に独自の進化の道のりを歩んだと言われていますが、98.77%のゲノムが共通であることがわかっています。冒頭の数字記憶再現タッチでは人間を遥かに凌ぐ能力をチンパンジーは持っていることが証明されました。これを博士はチンパンジーが人間とは違って、自然界を生き抜くために今ここにあるものを鋭く見極める能力が必要であったためと論じています。このチンパンジーの認知スタイルは目の前に見えているものがすべてであると捉えて、それを細かい点に至るまで観察し、記憶することに注がれていることを示しています。人間の男性と女性の記憶力の違いも良く話...
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アヘン戦争~東洋の没落と西洋の勃興の分水嶺~

久しぶりに一気に読み終える本に出会いました。ライフネット生命保険株式会社の出口治明会長兼CEOの書かれた「仕事に効く教養としての『世界史』」という本です。私が購入した本は出版から1か月も経たないうちに第三刷になっていますから結構売れ行きも良いのだろうと思います。タイトルの「仕事に効く」っていうところは個人的に編集部のセンスを疑いますが、題名を置いても、中身は歴史観において新しい視点を沢山提供してくれる好著です。著者は保険会社を退職後、大学の講師などを経て現職に至りますが、これまでに訪れた都市が1000以上、読んだ歴史書は5000冊以上という博覧強記ぶりとそれを基にした大河的視点を著書の随所に見せてくれます。 私の世代が習った世界史は明らかにヨーロッパ中心の西洋史観で、ギリシャ・ローマから始まりキリスト教の流れを本流に、騎馬民族は北方の脅威で荒くれ者の集団、バイキングは北方の海賊、ムスリムは傍流異端、アジアは野蛮な後進国、自由主義を建国の旗印にアメリカが栄え、ソ連邦の崩壊による冷戦終結を経て、歴史を先導した欧米の価値観がこれからも主流を形成するといったものと記憶しています。日本にとっては...
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ビッグデータ活用と組織の健全性

企業経営者は常に現状に何らかの不満を持っており、その現状打破のための新しいパラダイムやコンセプト、テクノロジー、トレンドには敏感である。敏感なことは良いことであるが、得てして万能薬を得られるかのような錯覚に陥り、十分な思慮がないまま形だけ導入して失敗することが数多ある。新しいシステムを導入しても、それを従業員が使いこなせなくては無駄な投資になるし、景気後退を理由に投資を途中で削ってしまい重要Module欠落のまま中途半端なシステム稼働をして全く当初の期待値を得られないばかりか、対投資効果マイナスという例もよく聞く話である。要は道具とそれを使う人間のバランスが重要ということである。使い方を知らなければ道具は宝の持ち腐れであるし、知恵を使うことによって何の変哲もない棒切れが命を救う道具に変わることもあり得る。 ここ数年でビッグデータという言葉はすっかり市民権を得たようで、その運用システム会社のみならず統計学の専門家などが表舞台に現れる状況になっている。ビッグデータでは、効率的に許容経過時間内に大量のデータを処理する卓越した技術、たとえば超並列処理データベースやデータマイニンググリッドなどが...