グローバル・イノベーター

2014年2月24日 at 4:36 PM

東京エレクトロン株式会社とApplied Materials, Inc.は、昨年9月24日、半導体およびディスプレイ製造装置業界における「グローバル・イノベーター」を目指し、株式対価による経営統合の契約を締結したことを発表しました。業界第1位と第3位の経営統合により第2位のASMLの2倍の売上規模になります。しかし、今後さらに大規模な開発投資が求められる半導体業界で生き抜くには、インテルやサムスン、TSMCといった大手に対して対抗できる知力と体力が必要でしょう。その決断をされた統合新会社の会長に就任される東哲郎氏のお話を伺う機会を得ました。東氏は経営者としては異色の経歴で大学時代には哲学や社会学、そして修士課程ではオランダ経済史などを学び、将来は学者の道を志していたそうです。卒業間際に就職する決意をし、当時社員200名・売上200億円規模の東京エレクトロンに28歳で入社し、96年から18年間トップを務めておられます。東芝会長の西田厚聰氏にも専務時代にお会いしたことがありますが、修士課程では西洋政治思想史を学ばれ、その関係で日本政治史を勉強されていたイラン女性と結婚されています。お二人とも揺るぎない信念を持ち、経営に当たられている印象は共通のものを感じました。学生時代に自ら「考える」という姿勢を確立されているからでしょうか、その経営における決断の裏付けとなる洞察力に並々ならぬものがあると感じました。エレクトロニクス業界でいわゆる「文系」の社長は少数派だろうと思いますが、学生時代の数年の経歴と社会に出てからの数十年のキャリアとを比較すれば、文系・理系と分ける事自体、可能性を狭めているように思います。「文系」だからメカはどうも苦手とか、エンジニアだから金勘定は好きじゃないとか了見の狭い台詞を聞くことが間々ありますが、ビジネスに関わっている以上、それに必要なものは文系・理系区別なく学ぶべきで、その点、日本はまだまだ生涯学習の考え方が浸透していないなあと思います。また私自身グローバルな交渉を行っていた場面で、リベラル・アーツ(基礎教養)の重要性は多々感じるところがありました。これから益々多国籍・多民族・多文化との接点が増えていく中、リベラル・アーツはグローバル・ビジネスにおける必須科目と言っていいだろうと思います。

ちょっと横道に逸れてしまいました。東氏の話に戻りますと「欧米を追う経営はもはや通用せず、アジアの需要を見極め、技術・品質・コスト・スピードで競争力を持つ『グローバルNo.1を目指す経営』」を標榜し、強固な統合への決断をされたとの事です。今、どれほどの日本企業が世界No.1を目指した戦略を持っているでしょうか。世界No.1を目指す戦略とTop3に入るという戦略はまるで違います。勝者総取りのグローバル・ビジネスでは中途半端な存在は市場撤退を余儀なくされます。世界中が猛烈なスピードでめまぐるしく動く現代においては時間という概念も疎かにできません。M&Aも当然視野に入りますし、企業文化の違う組織を統合することも決してたやすいことではありません。うまく行かずに破談した会社、凋落した会社は枚挙にいとまがないでしょう。しかし、その目標を定めたら一心不乱に突き進むしかありません。そこに勝機ありと決断したのですから。その強い決意を東氏に見ることができました。

そんなグローバルな世界No.1なんて話は大企業の話と切って捨て去るのは惜しいことです。中小企業でもベンチャー企業でも、世界一ではなくても、日本一、九州一、町一番の小売でもいいです。規模がすべてを制す訳ではありません。このサービスでは絶対他社に負けないとか、機能面での切り口でもいいです。他社がやらないことをやる。世界初を目指す。何かこの分野では絶対に負けないという信念を持って事に当たる企業が少なくなったような気がします。民主党が政権を取って、事業仕訳をした当時に某議員が「1番にならなきゃいけないんですか?2番じゃいけないんですか?」といって予算の削減を求めていましたが、果たして2番になる戦略ってあるんでしょうか?3番に負けない戦略って何でしょうか?1番になる戦略を取って、結果2番になることはあっても、2番になる戦略(というものがあるのか想像できませんが)を取って2番になれるとは決して思えません。

東氏は「利益志向」についても自説を展開されました。「社会に対して高い価値のある製品を継続的に提供することにより、社会に貢献し、高い利益を上げることができる。利益の大きさは我々の能力の大きさに依存する。つまり日常における全ての活動は、最大の利益を追求することを目的に行われるべきである」と。私の意見とは少々異なりますが、多くの日本企業の利益率が欧米企業に比べ低いことは事実で、これは労働環境の違いもありますが、同時に技術革新によってコモディティ化し利益の取れなくなった事業を抱え込んでしまっていることも要因のひとつでしょう。それゆえ日本企業は欧米企業より早く事業転換の芽を植え、育て始めなければグローバル競争に勝てません。それをチームワークの強さで他社が容易に追随できない要素技術と品質に昇華し、愛着をもって商品やサービスを提供していく事が必要です。日本の強みを活かしたアプローチという特性になるかもしれませんが、新興国含め、皆グローバル・イノベータ―を目指して激烈な競争を繰り広げている中で、No.1を目指す気概と信念・自由闊達な職場とチャレンジ精神、そして目標達成への熱意と責任感が今一度必要であることを再認識させていただいた東氏の講演でした。

(ちなみに東京エレクトロンは2月28日、代表取締役を含む役員4人の月額報酬を30%減額すると発表しました。同社が12年にスイスの会社を買収して本格参入したものの赤字が続き、撤退を決めた太陽電池製造装置事業を中心に2013年4~12月期に467億円の特別損失を計上し、その結果の経営責任を明確にすると同時に、事業に関わった執行役員の降格も発表しています。こういった処し方もなかなか普通の日本企業にはできないことです。)