健康と科学

2014年2月2日 at 2:01 PM

昨年末にIBMが今年で8回目になる「今後5年間で人々の生活を変える5つのイノベーション」を発表しました。その5つは次のようなものです。

  • クラスルームが生徒について学ぶ
  • 地元での買い物がオンラインに勝る
  • 健康維持にDNAを活用する
  • デジタルの番人がオンライン・ユーザーを保護する
  • 都市が市民の生活を支援する

全て深堀したくなる興味深い項目ですが、今日は3番目の「健康維持にDNAを活用する」に触れてみたいと思います。世の中には原因が解明されていない難病や治療法が確立していない重篤な病に冒されている方が少なからずおられると思います。最近報道されたSTAP細胞は若いマウス実験だけでの再現ではあるものの、これまで発表されてきたiPS細胞やES細胞などの万能細胞より短期間で簡便に(つまり安価に)細胞の初期化が行えるという点において、将来の応用の可能性が大きいと言われています。

人は死を免れることができませんが、生きている限りは極力痛みにさらされることなく、幸せに生きることを願っていると思います。PPK(ピンピンコロリ)が一番いいねと言われる所以です。

一般の方の死因というのは、やはりガンが一番多く、次いで心疾患、脳血管疾患が続きます。ガンは、これまでの研究や治療の飛躍的な進歩にもかかわらず、世界でのがんの罹患率は2008年以来10パーセント以上増加しており、毎年世界中で1,400万人を超える患者を悩ませ、810万人の患者の命を奪っているとWHOの調査報告書が伝えています。

「健康維持にDNAを活用する」とは、個々人のDNAを解読し、その患者に最も効果がある治療方法の組み合わせが提案される個別化医療が実現するということです。2003年に解読完了したヒトゲノムはABI社がゲル電気泳動技術を使って当時ひとりの全遺伝子を解読するのに8年の歳月と300億円の巨費が掛かったそうです。現在は各社がその技術を競い合ってRoche社やIllumina社が2か月で1000万円というコストで出来るそうですが、まだ一般民間人の手の届くレベルではありません。先日参加した「ナノバイオデバイス研究の最前線」セミナーでは目標を1日で10万円という低コストで実現しようとする研究者や企業からの報告を聞くことができました(もっと先には1時間1万円も夢ではないとのことです)。

個別化医療の実現には究極の個人情報とも言えるゲノムの収集と解析が必要で、GoogleやMicrosoftなどが早く100万人分のゲノムを集めた方が勝ちと言われるビジネスの主導権争いを競い合っているようです。ビッグデータ・アナリティクスやクラウドベースのコグニティブ・システムなどでは資金力の豊富な米IT企業には日本企業がなかなか対抗できないかも知れませんが、簡便に瞬時にかつ安価で遺伝子診断ができるナノバイオデバイスの分野では十分チャンスがあると思います。セミナーでは東芝がDNAチップカードでウィルスや病原菌を30分で検知する技術、パナソニックが呼気に含まれる匂い成分から健康状態を検知する技術、東レがマイクロRNA(DNAから情報を取り出してタンパク質を作る)量の変化を検出して病気診断に繋げる技術などが報告されました。世界の医療費は年間447兆円(日本は37兆円)だそうです。多くの国が財政負担に苦しむ中、痛くない診査が開発され、それが予防に繋がり、財政負担を減らし、個人個人が少しでも幸せな充実した時間が永く続けばこれに越したことはないと心から思います。今後の研究の発展を大いに期待しています。

しかしながら個人的には今後の医科学の発展が不老不死なるものに至らないことを祈ります。というのも生があって死があるのが自然の摂理と思いますし、死があることで生が輝くとも思っているからです。死因の第一位であるガンが撲滅される日が来ても、必ず生き物に死が訪れるとすれば、必ず死因があることになります。ガンに替わる死因が何であれ、医科学はその撲滅に向かって発展していくものと思いますが、それは有限なる幸福な時間の実現であって欲しいと思います。

手元に年代別の死因の第一位のデータがあります。0~4歳:先天異常、5~9歳:不慮の事故、10~14歳:ガン、15~39歳:自殺、40~89歳:ガン、90歳~99歳:心疾患、100歳以降:老衰。先天異常はまさに妊娠中のお母さん、お父さんの第一の心配を反映しています。不慮の事故は親御さんが子育て中に何回「危ないからやめなさい!」と叫んだかと想像させます。白血病などの若い人のガンは辛いですね。私も高校時代の友人を骨肉種で亡くしています。青年期の悩みは当人には死を選ぶほどの大事ですが、何とか力強く生きて欲しいですし、周囲も何かの力になってあげたいと思います。体と心は互いに影響し合うものと言われていますので、医科学の進歩を見守りつつ、自身の心のバランスを保持して、それぞれが愉快にそして有意義に暮らしていくことが求められているのではないかと思います。