低下するアメリカとこれからの日本

2016年12月10日 at 4:38 PM

トランプ米次期政権の閣僚の顔ぶれが固まってきた。労働長官にはアンドルー・パズダー氏(ハンバーガーチェーンのカールス・ジュニアCEO)を起用、最低賃金の引き上げに反対するファーストフード経営者で、オバマケアにも反対の立場。現行制度では労働者の負担が増えて外食費が減ると自らのビジネスへの悪影響を主張。環境保護局長官にはスコット・プルイット氏(オクラホマ州司法長官・石炭石油業界から多額の献金を受ける)を起用。地球温暖化に対応しオバマ大統領が進めた石炭火力発電所規制に反対の立場、シェールガスやシェールオイルの追い風もあり、化石エネルギーへの回帰が起こると予想されている(トランプ氏は温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」からの離脱を示唆。一方、習近平氏は「パリ協定」を支持と好対照)。厚生長官にはトム・プライス氏(下院予算委員長・整形外科医歴20年)を起用。オバマケアには反対、同性婚禁止の憲法改正を主張。運輸長官にはイレーン・チャオ氏(ブッシュ政権の元労働長官・アジア系アメリカ人女性として初の閣僚・中国政府と強いパイプを持つ)を起用、規制緩和推進派。中小企業局長にはリンダ・マクマホン氏(プロレス団体WWE元CEO。TVにも出演し抜群の知名度と資金力を持つ)を起用、起業家支援を強化するとされる。その他では。財務長官にはスティーブン・ムニューチン氏(ゴールドマン・サックスの元幹部)、商務長官にウィルバー・ロス氏(知日派の投資家・LBO専門の企業再建王)を起用。外交を司る国務長官にはエクソンモービルのティラーソンCEOが最有力候補と報じられてる。総じて、オバマ政権が進めてきたリベラル路線(オバマケアに代表される厚い福祉路線、比較的社会主義的色彩を帯びた所得再分配派。極端な市場主義には反対)からの転換、つまり規制緩和により市場自由主義をを標榜していく経済政策と、アメリカさえ良ければいいという国家主義政策が鮮明になってきており、政治経験がなく、外交手腕も未知数な、主にグローバル・エコノミーで成功した経済人を中心に構成しつつあるということである。

一方、トランプ氏が当選したら株価は暴落・ドル安になると大方の経済専門家が予測したのに反し、当選後すぐにNYダウ続伸・ドル高進行。日本の株価も円安を好感して日経平均19000円を付けた。市場では、トランプ氏の掲げている①財政出動で雇用創出、②大幅減税や規制緩和で経済を活性化(一方、パナマ文書で指摘されたような米大手企業や富裕層の利益移転・租税回避に対して一律10%のみなし課税を課すなどの海外課税強化)はロナルド・レーガンが行った経済政策(規制緩和による市場原理導入・減税刺激策・軍事費拡大⇒貿易赤字と財政赤字の双子の赤字を抱える。企業の投資資金は買収合併に向かい、株式バブルを生み、1987年のブラックマンデーではじけた)に酷似しており、バブルを作って、バブルがはじけると早くも予測する向きがあります。

トランプ氏の選挙スローガンは「Let’s make America greater again」ですが、これはレーガンの選挙戦でのスローガン”Make America Great Again”と全く同じです。スローガンは閉塞した白人労働者層には耳障りがいいですが、選挙中の公約は支離滅裂・論理矛盾のオンパレードで、実際どのように政権運営していくのか、今もってTwitterから放たれる「トランプ方針」は熱狂的な支持者以外には、不安を増幅させる効果しかないようです。

そういった威勢の良いスローガンを掲げて、閉塞感と停滞感に苛まれた多くのアメリカ人の期待を惹きつけざるを得ないほど、アメリカは明らかに超大国の看板を下ろさざるを得ない状況になっています。アメリカの政治学者サミュエル・ハンチントン教授は1996年に執筆した「文明の衝突」で覇権国アメリカの力が相対的に低下し、中国やその他新興諸国のパワーが高まりつつある中で世界秩序のさらなる混乱が予想されると、現在の状況を見事に喝破しました。相対的地位の低下とは、アメリカの圧倒的・絶対的に優位な地位が、新興国が力を付けてきた結果、アメリカとの差が縮まったと解釈できると考えます。しかし、今起きているアメリカの地位低下は絶対的な低下と見ることができます。今回の大統領選の候補者同士の討論もお互いの過去の醜聞やスキャンダルを非難し合い、足を引っ張り合うことに終始し、政策論争はほとんど行われていませんでした。世界を主導してきた指導的国家アメリカの世界に向けてのメッセージはすっかり影を潜め、アメリカ第一とばかりに、偏狭でモラル・ハザードに侵された「並みの国」へ向かう現況を露呈したものと思います。

日本はトランプ氏が放棄した(と見える)TPPをいち早く国会承認し、他国にも早期批准を呼び掛けています。国防面では憲法上の規定からいまだ多くをアメリカに頼っていますが、経済面ではもうアメリカの顔色を窺って政策を進める必要も意味も無くなったように思います。イギリスは最初の民主主義国家の矜持をもってBREXITを選択し、ポピュリズムと覇権主義から一歩退いた形を取ったという見方もあながち見当違いとは言えないかもしれません。覇権国家中国も強権国家ロシアも多くの国から嫌われています(人種ではなく国家のことです)。アジアでは唯一最も好かれている国の上位に選ばれている(英BBC世界世論調査「世界に良い影響を与えている国」2006-2014で常に上位5位以内に入っているアジア唯一の国が日本)日本が、アジアの安定と平和にとって、そして世界にとって無くてはならない国になるために、文化的にも経済的にもより価値を高める努力を怠ってはいけないと強く思います。日本文化を肌で体験しようと多くの外国人観光客が訪れてくれています。質の高いインフラ輸出などは、単に札びらを見せびらかし、表面の価格だけを魅力的に見せて受注し、中身はすっからかんの仕事をする某国とはわけが違います。

現在、日本政府が「世界貢献年表」を作成中ということを聞きました。奥ゆかしい日本人は過去にODAや様々な人的貢献も含め「あれをやってあげた、これをやってあげた」と声高にアピールすることを良しとしませんが、世界外交の渦中では、お人よしでは生きてはいけません。アメリカは既に「世界の警察官」を放棄しています。その結果、世界は明らかに不安定になっています。この機に乗じて覇権主義をさらに拡張する強国が出てきているのは皆さんご承知の通りです。弱小国はその波に飲み込まれないように、したたかに外交政策を行うでしょうから、外から見れば一貫性のないことも多々あります。歴史を見ても外交は二枚舌が当たり前です。覇権国とそれにすり寄る弱小国を除けば、世界中の日本への期待はこれまで以上に高まっています。国内では良き日本文明を堅持し、国力を増進する。国外に向けては、リーダーたる見識を持って、しかし驕ることなく自信をもって主義主張を展開していくべきです。国力を失った国が過去どのような末路を辿ったか、現実を直視しないで国民の生命と財産を維持することがいかに困難かは、多くの歴史が証明していることです。日本の資産は金融1500兆円、土地・建物などの固定資産が1000兆円と言われています。負債も400兆円ほどありますが、純資産で2000兆円以上あることを考えれば、5兆円の国防費が高すぎるなどとは言えないはずです(災害の際にも自国民を命を懸けて救助してくれます。その為の訓練を日夜行ってくれています)。もっと社会保障(すでに30兆円超)にという声もありますが、日本が覇権国に攻め込まれた時(物理的に攻め込まれないにせよ、サイバー攻撃や内乱誘発などのスパイ行為なども含め)には数百兆円があっという間に消失します。アメリカの地位低下が進む中、何が大事か改めて考えさせてくれるトランプ現象(アメリカに留まらず欧州でも地殻変動は起こっています)であると思います。