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ゼブラ企業

最近、「ゼブラ企業」という言葉を聞いた。近年スタートアップ界隈で注目されている社会的意義と持続可能な利益を両立させる企業を指す言葉らしい。すぐに思い出したのは、CSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)である。CSVの概念は、2011年にハーバード・ビジネス・スクールのマイケル・E・ポーター教授とマーク・R・クレイマー研究員が発表した論文で提唱され、広く認知されるようになった。この概念は、企業が本業を通じて社会的な課題を解決し、経済的な価値と社会的価値の両立を目指すというものである。つまりCSVは、企業が社会のニーズや問題に取り組むことで社会的な価値を創造し、その結果として経済的な価値も創造されるというアプローチである。これは、従来のCSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)とは異なり、慈善活動やボランティア活動として社会貢献を行うのではなく、企業の事業戦略として社会課題に取り組むという点が特徴である。 CSVの起源を遡ると、2006年にネスレが発表したCSRレポートにCSVの考え方につながる事例が掲載されていた...
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パナマの憂鬱

パナマといえば、パナマ運河を真っ先に思い浮かべるであろう。太平洋と大西洋を結ぶ海の要衝で1日36隻150万トンもの物資が通過する。スエズ運河やキール運河と並んで、世界三大運河である。スエズ運河は地中海と紅海を結ぶエジプトにある運河だが、イエメンの親イラン武装組織フーシ派による紅海の船舶攻撃で航行の自由が脅かされている。キール運河は日本にはなじみが薄いが、北海とバルト海を結ぶドイツにある運河である。パナマ運河は米中対立の矢面に立たされ、CKハチソン(香港系)所有の港湾事業を米系企業連合に売却を計画したものの、中国当局が審査を強化したため、実現に不透明感が出ている。世界物流のリスクは地政学リスクを伴って高まる一方である。 パナマの憂鬱の一つ目は、運河の水不足である。2023年には過去100年で最大の干ばつと言われるほど降雨量が減少しており、運河の通航に多大な影響を与えている。というのも、パナマ運河の通過点にはガトゥン湖という標高26メートルの湖があり、これを超えなくては通航できない。この湖の水を使用しながら、一つの閘門(こうもん)ごとに8~9メートル程度の水位調整を行いながら、3つの閘門を...
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激動期それぞれの日中3姉妹

【浅井の3姉妹】 戦国時代、北近江に浅井長政という大名がいた。浅井には今も歴史に名前を残す3人姉妹がいる。茶々、初(1歳下)、江(ごう:さらに3歳下)である。浅井は織田信長の妹で戦国一の美女と言われたお市を妻にして同盟を結んだが、1570年の金ヶ崎の戦いで信長を裏切り、その後も対立が3年続いた。最終的には1573年の小谷城の戦いによって長政は自害(享年29)を余儀なくされ、3姉妹の兄・万福丸は信長の命により羽柴秀吉によって串刺しにされたという(享年9)。 お市は3人の娘とともに藤掛永勝によって救出され織田家に引き取られるが、1582年の本能寺の変により信長が討たれると、お市は信長の重臣柴田勝家と秀吉との協議(取り合い?)により結果、勝家のもとに嫁ぐことになる。ところが、その翌年には勝家と秀吉の対立が先鋭化し、賤ヶ岳の戦いで勝家が敗れることになる。最終的には覚悟を決めた勝家は、お市に越前北ノ庄城外退去を勧めたものの、それを拒否したお市は勝家とともに自害する(お市享年37)。 両親を失った3姉妹は富永新六郎という武士によって、両親を死に追いやった憎き秀吉のもとに届けられる。当時50歳を目前...
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アイスランドの歴史~日本との比較を交えて~

アイスランドを初めて訪れた。昨年から今年にかけて太陽の活動が盛んなこの時期に肉眼でオーロラを観ることがその目的である。その目的は初日の夜は残念な結果だったが、幸運にも二日目の夜にして早くも達成することができた。しかし同時にかつ意外にも、人間の眼より今やカメラの性能の方が上回っていることを気付かされた日でもあった。これまでも動画静止画問わず、沢山のオーロラ映像を観てきたが、それらはカメラ性能とカメラマンの技術によって創り出された、ある種アーティフィシャルな世界のものであったことに気づかされたということである。 とは言うものの、今回のアイスランド訪問によって新たな気づきも多くあり、大変有意義な旅であった。日本とアイスランドには多くの共通点がある。両国とも火山大国であり、温泉文化が発展している。世界最大の露天風呂施設「ブルーラグーン」は世界中からの観光客で賑わっていた。両国とも周囲を海に囲まれており、豊富な水産資源の恩恵を受けている。捕鯨に関する考え方や取り組みも共通している(アイスランドは1992年IWC国際捕鯨委員会を脱退、2002年に復帰、2006年商業捕鯨再開。日本は長きに渡って科学...
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北朝鮮のお財布事情

ロシアによるウクライナ侵攻から丸3年、これを契機に中露北が結束を強めていることはこの三国と近距離で対峙している日本にとって好ましからざることである。G7によるロシア経済制裁の効果を無力化するかのように、水面下で中国はロシアに経済的な支援を行っている。北朝鮮は砲弾や装備の提供に加えて、1万1千人以上の兵士をウクライナ紛争の前線に送り出している。北朝鮮は、その見返りに食料や燃料・外貨・軍事技術など得ているとされている。2月24日には中ロ首脳が電話会談を行い、習近平主席は両国関係の強さを「両国の関係はいかなる第三者からも影響を受けることはない」と強調している。北朝鮮と中国の関係は現在微妙な状況にはあるが、米中対立下において、中国が北朝鮮を外交カードとして温存しておきたいという姿勢は変わらないであろう。 最近の北朝鮮に関するニュースを列挙してみると: ●2月28日:警視庁の鎌田徹郎副総監が「北朝鮮はサイバー攻撃で窃取した暗号資産を核・ミサイル開発の資金に充てていると指摘されていて、暗号資産をめぐる犯罪は治安上の課題にとどまらず、安全保障にも関わるもので、大変憂慮すべき状況だ」と述べた。 ●2月...
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弱肉強食時代の再来、どうする日本

1月20日、ドナルド・トランプ氏が第47代大統領として正式に返り咲いた。2024年11月の大統領選挙で勝利して以降、トランプ氏は正式就任を待たずに矢継ぎ早に新政権の政策を発表し、世界中がそのSNS投稿などに注目している。なぜなら、世界のリーダーを実質上降りたとは言え、アメリカがいまだにNo.1の大国であることを多くの国が認識しているからである。その政策の中身は実現可能性を疑うものもあるが、不動産実業家らしく、外交交渉においても持ち前のディール(取引)で事を進めようとする氏の手法が明確になってきている。 これまでの政権と明らかに違うのは、一貫した「フィロソフィー」が見当たらないことである。それでは何を基軸に据えるのか? それはアメリカあるいはトランプ氏自身にとって損か得かの「損得勘定」に依拠していることであろう。時にビンボールを投げ、相手をのけ反らせておいて、落としどころを見極めるスタイルである。 違法移民の強制送還を早速始めているが、コロンビアが強制送還された移民を乗せた米軍機の受入を拒否したことで、トランプ大統領は全輸入品に25%の関税を掛け、政府高官らの渡航禁止とビザ取消、財務・銀...
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2025調達環境を考える

毎年最初のブログは調達活動について論じています。1年前に書いたブログで予想に反したことが2つありました。 ひとつは選挙イヤーであった昨年、軒並み民主主義国の与党が選挙に敗れたことです。英国は保守党から労働党へ14年ぶりに政権交代が起こりました。フランスはマクロン大統領率いる与党連合の議席が大幅に減りました。ドイツではショルツ首相(社会民主党)の3党連立政権(自由民主党・緑の党)が崩壊し、来月に総選挙が行われます。韓国は尹錫悦大統領が弾劾訴追され、代行の首相も弾劾、副首相が代行する中で尹大統領に逮捕状が出されるという前代未聞の異常事態。日本も少数与党の石破首相が右往左往。インドも絶対的支持を受けていたモディ首相率いるインド人民党は過半数割れ。米国は自国第一主義を掲げるトランプ前大統領が再選を決めました。各国それぞれ違う状況や背景があるにせよ、広がり続ける格差への不満、物価高や住宅難など生活に苦しむ市民が変化を求めた結果と総括することができるのではないでしょうか。日本において自公与党が明らかに読み間違えたのは、国民は「景気・雇用・物価高対策」を求める層が53%、一方、「政治とカネ問題」を期...
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日独ふたつの敗戦国その後

イスラエルとレバノンの武装組織ヒズボラの間では11月27日に「攻撃的な軍事作戦」を禁止する停戦合意が発効したばかりだったが、イスラエルは停戦合意後の28日にも空爆を行い、早くも米仏が仲介した停戦合意の脆弱性が浮き彫りになってしまった。 ガザ地区での戦闘は1年を超え、死者も4万人を超えた。ウクライナ・ロシアの戦闘では10万人以上が死亡し、死傷者は100万人を超えるという。何という愚かなことであろうか。 第二次世界大戦で日本は独伊と三国同盟を結び、連合国側と各地で戦闘を行った。イタリアは早々に降参し、最終盤では独日に宣戦布告を行っている。 第二次世界大戦における死者数は4000~5000万人と推定され、日本は310万人、ドイツはそれ以上の死者を出している。 ドイツと日本の敗戦後、多くの民間人は戦争終結にホッとしたことであろう。 現在進行中の戦闘下にある民間人の置かれた精神状態を想うに、早期の戦争終結を願うばかりである。 敗戦により日本は台湾、南樺太、朝鮮半島などの属領を失い、事実上統治下にあった満州を含むと領土の約80%を失った。いわゆる外地には当時の日本人の1割に当たる660万人が生活を...
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自民党大敗の意味

10月27日投開票の衆議院選挙において自公の与党は過半数233を確保できず、279議席から215議席へという大敗に終わった。自民党だけで56議席減らし、公明党は8議席を失い、選出されたばかりの石井代表は辞意を表明した。議席を伸ばしたのは立民党+50、国民党+21(立候補者が足りず3人は他党へ割り振る結果に)、れいわ+6、参政党+2、保守党+3である。議席を減らしたのは公明-8、維新-6、共産-2。 これを3年前の衆議院選挙との比較で得票増減数で見てみると、今回の選挙結果の本質が見えてくる。自民党1991万⇒1458万(―533万)、立民1149万⇒1155万(+6万)、国民259万⇒616万(+357万)、公明711万⇒596万(-115万)、維新805万⇒509万(-296万)、れいわ221万⇒380万(+159万)、共産416万⇒336万(-80万)、参政0⇒187万(+187万)、保守0⇒114万(+114万)、社民101万⇒93万(-8万)。 立民の得票はほとんど増えていないにも関わらず50議席増の大勝。自民党は26.7%もの自民支持が他党へ流れているのである。自民党支持者ある...
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UNIVERSE 25 実験

1968年~1972年にかけてアメリカの動物行動学者ジョン B. カルフーンは「UNIVERSE 25」というネズミを使った実験を行った。この実験に選ばれたのは、4組8匹のネズミである。2.7m四方のスペースに高さ1.4mの側面を取り付け、快適に暮らせる256個の巣箱が用意された。垂直に伸びた16本のトンネルと4本の水平のトンネルによってネズミ達が自由に出入りできるように設計された。水も食料もふんだんに切れ目なく与えられ、ネズミにとって必要なものはすべて与えられたユートピアが作られた。それぞれの巣箱には最大15匹が生活できるように設計され、全体では3840匹のネズミがストレスなく生活できる空間が用意された。 実験施設に入れたネズミは、当初から新しい環境に慣れて縄張りを作り、巣作りを始め、104日後には初めて子ネズミが生まれた(フェーズA期間)。 ネズミの個体数はまさに鼠算のごとく55日ごとに倍になるペースで順調に増え続け315日目、個体数は620匹まで増えた(フェーズB期間)。 315日目以降になると、それまで自由に巣箱やえさ場を選んでいたネズミたちは、なぜか一か所に集まり始め、決まっ...