
同一性と変化の矛盾
植民地時代において侵略国に勝手に線引きされた国境によって、民族対立による内戦は世界中のどこかで止むことなく続いています。宗教あるいは民族を基にした同一性の反映でもありますが、歴史を紐解くとその同一性や継続性の根拠は薄弱であることが少なくありません。企業においてもDNAの話は時折話題になり、凋落している企業には「~らしくない」「~らしからぬ」といった修飾語で語られることがあります。一方、企業トップは「変わらないのが最大のリスク」と号令をかけて、変革を促します。よく「変えてはいけないものは維持継承し、変えるべきは大胆に変える」といった指針が出たりしますが、果たして何を変えずに、何を変えるかが具体的に語られないと従業員は戸惑いますね。 ギリシャ神話で「テセウスの舟」というお話があり、ギリシャ時代から議論され続けているテーマのひとつです。ある漁師が木の舟を漕いで毎日魚を捕りに行く。来る日も来る日も魚を捕りに行くので、木の舟は傷んでくる。腐るところも出てくる。岩にぶつけて破損してしまうこともある。その都度、漁師は新しい木で修繕をする。漁師は歳を取り、もう漁には出られなくなる日が来る。そしてその息...