国連における人知れぬ闘い(沖縄の非自治地域リスト入りの攻防)

ほとんどの日本人はおろか、大方の沖縄県人も知らないであろう事態が国連で進行している。国連の人種差別撤廃委員会や自由権規約委員会は、2008年以降、沖縄の人々を先住民族と認め、その権利や自己決定権を保護するよう日本政府に繰り返し勧告を出している。その経緯は以下のようなものである。
2008年10月(自由権規約委員会)最初の勧告:琉球・沖縄の人々を国内法で先住民族として明確に認め、彼らの伝統的文化や生活様式、土地の権利を保護する特別な措置を講じるよう要請。
2010年3月(人種差別撤廃委員会)沖縄の人々が受け続けている根強い差別や、米軍基地の不均衡な集中に伴う人権問題に懸念を表明。
2014年7月(自由権規約委員会)第2回目の勧告。伝統的な土地や資源、独自の言語で教育を受ける権利が十分に認められていないとして改めて懸念と改善を指摘。
2014年8月(人種差別撤廃委員会)日本政府の見解見直しを促し、先住民族としての権利、とりわけ土地や天然資源に対する権利の保障措置を強化するよう最終見解を公表。
2018年8月(人種差別撤廃委員会)これまでの勧告が実施されていないことに懸念を示し、琉球・沖縄の人々の権利保護に向けた対話や措置を継続するよう要求。
2022年11月(自由権規約委員会)オンラインやオフラインで琉球・沖縄の人々がヘイトスピーチ(人種主義的言説)の標的になっている点を指摘しつつ、先住民族の権利保障を改めて要請。

国連側が「先住民族の権利に関する国際連合宣言(UNDRIP)」に基づき勧告を重ねる一方、日本国内では政府の拒否姿勢と沖縄県民内の認識の乖離から、これら勧告に対する反発が年々強まっている。
日本政府は「国内の先住民族はアイヌ民族のみ」との姿勢を一貫して崩しておらず、国連からの上記要請をすべて受け入れていない。
地方議会・有志等の撤回運動としては、2015年以降、沖縄県内の複数の市議会(豊見城市や石垣市など)が国連の認識に異議を唱える決議を可決している。
直近の動向として、2026年3月および7月には、琉球王国の尚家代理人や沖縄の地方議員、保守系民間団体がスイス・ジュネーブの国連会議(人権理事会など)に渡航参加し、「大多数の県民は自らを日本人と認識しており、先住民族扱いは事実誤認と分断工作である」として、直接勧告の撤回を求めるスピーチを行っている(日本沖縄政策研究フォーラム理事長:仲村覚氏)。
仲村氏はスピーチで、国連において「沖縄の人々の先住民族決議がなされた事実をほとんどの沖縄県民が知らされておらず、沖縄県民がそもそも認識も議論もしていない」状態であること。そして県民の側から発せられたわけではないテーマが国連で何度も俎上に載せられているという事実が、「特定の政府の侵略的意図を前提とする」ことを訴えた。

国連広報センターの「先住民族」ページには定義されるべき基準が規定されることなく、保護活動の重要性のみが取り上げられている。基準がはっきりしていないので、人権を声高に唱える人たちの意見が勢いを得る傾向がそこにはある。沖縄の人々が「先住民族」であり保護さるべき対象なのだと主張するグループは確かに存在する。それらの市民団体や有識者と言われる人たちが、辺野古の基地建設問題やPFAS汚染、歴史的な同化政策などを「脱植民地化」および先住民族の権利問題として位置付け、訴えている。その急先鋒が玉城デニー沖縄県知事を担いでいる琉球独立派である。沖縄県民のどれほどの人が、沖縄県が琉球王国として独立することを望んでいるだろうか。県民の民意を受けぬ、この琉球独立運動には一体どの様な意図が隠されているのであろうか?

台湾統一を宣言している中国が武力統一にあたって最も邪魔なのが、台湾の隣にある駐留米軍と自衛隊である。しかしながら「宮古海峡の制空権を有しているのは日米」であり、中国は容易には手を出しづらい状況がある。それゆえ「沖縄の人々を先住民族とする」運動を行うことによって分断を誘う作戦に出たと解釈される。つまり一連の動きは「中国が背後にあって、進められている在沖米軍撤退工作(沖縄の独立と非武装化)」であると断言してよい。沖縄の人々を先住民族とする国連勧告は、この中国の太平洋進出を全面的に後押しするものとなっている。

国連人権理事会の諮問機関に「先住民族の権利に関する専門家機構(EMRIP)」があり、先住民族の権利を国際社会に知らしめるための中心的役割を担っている。その構成は専門家7名(先住民)を国連人権高等弁務官事務所がサポートする形になっている。立派な国際機関の様相を呈してはいるが、国連には様々な委員会があり、様々な組織や国が主導権を握ろうと躍起になっている実態を知る必要がある。この専門家に採用されるべく、先の琉球独立活動家のひとりが応募していたが、仲村氏らの事前意見書によって任命を阻止することに成功している。

今年6月にNYの国連本部で行われた「脱植民地化特別委員会」で沖縄が「非自治地域」リスト入りすることが懸念されていた。しかし、これら一連の活動によって、沖縄のリスト入りを回避することができた。もし、リスト入りしてしまうと、沖縄は日本の固有の領土ではなく、暫定的に管理している地域へと法的地位が格下げされてしまう。それのみならず、1972年の沖縄返還が国際社会によって否定されることになる。さらには、国連宣言第30条に基づき、全ての自衛隊施設・米軍基地の駐留が国際法上違法とされ、日米同盟による安全保障体制が崩壊するという事態を招くのである。

この人知れぬ闘いは、単なる歴史・文化的な位置づけの議論にとどまらず、「沖縄から米軍基地を排除するために国際法(先住民族の権利)を利用したい側」と、「それが日本と沖縄の分断や安全保障の危機に繋がると警戒して拒絶する側」が、国連という国際舞台の場でせめぎ合っているという構図なのである。
沖縄の主権を根底から解体しようとする中国の「法律戦(Lawfare)」などの超限戦は目に見えぬ形で潜行し日本を蝕んでいる。戦後、紛争に巻き込まれなかった日本は全く幸せであったが、このような水面下の小さな変化にも十分留意し、用心をしなければ、この幸せは継続しない。お人よしでは平和を維持することはできないと胆に銘じるべきである。9月13日(日)の沖縄知事選挙の結果をまずは注目したい。

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