日本の立ち位置

2019年8月7日 at 11:43 AM

前講は主に大航海時代から植民地時代を経て、日本がどのような歩みをしてきたかを論じました。今回は今現在を視点に置いて日本を取り巻く環境と日本自身について論じてみたいと思います。

株価が連日大幅安となっていますが、これはご案内の通り米中貿易摩擦に端を発する米中経済戦争が世界経済の大きな不安要素となって市場を揺るがしている結果です。賢明な皆さんは、この状況が決して経済のみに限定した争いでないことはご存知のことでしょう。将来に向けての覇権争いであり、現状況は米中冷戦の始まりに過ぎないと言って差し支えないでしょう。この収まりには数十年単位のスパンで見ていく必要があります(米ソ冷戦は44年間続きました)。5G、サイバー空間、宇宙空間、AI、デジタル情報など新しい分野での覇権争いが次々とその戦場になっていきます。

さて、日本周辺はどうでしょうか。日韓の関係悪化が連日取り沙汰されています。文在寅政権が変わるまでは日韓関係が好転していくことはないでしょう。文政権の最重要課題は何よりも南北朝鮮統一ですから、理屈が通らないことでも国民感情に訴え、煽るやり方で押し切るつもりなのでしょうが、民衆がそれに最後まで付いて行くでしょうか? 韓国は現状、民主主義国家ですから民意が離れてしまえば政権は維持できません。今日の報道ではソウル市内で日本製品の不買運動を呼び掛ける旗に対して、「韓国が好きで来ている日本人に不快感を与える」と批判が殺到し撤去に追い込まれたと書いてありましたので、こういった良識のある人々の声が上がり、事態が鎮静化に向かうことを切に願っています。

韓国が実効支配している竹島に先月、中露合同軍事訓練に参加していたロシア機が領空侵犯をし、韓国・日本がそれぞれロシアに非難、激しく抗議しました。日本は韓国に対しても外交ルートを通じて抗議しました(竹島は韓国の領土ではないからロシアに抗議する立場にないというのが日本の主張です)。実は、この事件の前に中国機が対馬上空の日本の防空識別圏に侵入し、航空自衛隊はクランブル発進しているのですが、ほとんど報道されていません。

中露が日韓関係の悪化の隙間を突いて揺さぶりをかけてきているわけです。北朝鮮は米朝会談が進展しないことにいら立ち、この2週間で4回のミサイル発射を繰り返しています。トランプ大統領は短距離ミサイルは気にしないとばかり金正恩委員長に対して無視を決め込んでいますが、日本にとっては気が気な事ではありません。韓国も同様だと思うのですが、北朝鮮に対する非難の声は韓国国内からは聞こえてきません。

北方領土交渉については完全に膠着状態に陥っていますね。経済不調なプーチン政権は何とか日本から経済協力を得たいと思っていて、米軍基地を北方領土に置かない言質がなければ、領土問題は解決しないという姿勢で交渉しているようです。余り知られていないことですが、北海道に米軍専用基地はありません(最後まで残っていたキャンプ千歳は1975年に在日米軍撤退)。今は米軍基地の北限は青森三沢基地です。60年安保の時代にアメリカの仮想敵国はソ連でしたが、にもかかわらず、北海道が手薄だったのには様々な理由があったようですが、米国にしてみれば、対ソにはヨーロッパにおける駐留部隊がいるので、極東側は基本的には日本主導で任せているという背景があるようです。ですから、プーチン大統領は米軍駐留を本当に恐れているわけではなく、日本との交渉カードに使っているウェイトが大きいのではないかと私には感じられます。

次に日本以外の視点から日本を見てみましょう。まず経済力ですが、世界GDPに占める日本の割合は高度成長期を迎えるまではずっと3%程度でした。そして脅威の高度成長を果たし、1995年には17.6%、アメリカに次ぐ世界第二位の経済大国の立場を揺るぎないものとしました。しかし、バブル崩壊以降その地位は年々低下し、2018年には6%(中国は16%)に後退しています。2030年にはインドに抜かれ、いずれ江戸後期の3%程度に戻るのではないかといくつかの経済研究所が予想しています。かつて一人当たりの名目GDP2位だった日本は昨年2018年には26位。独仏英など欧州主要国の後塵を拝しています。

世界における存在感という視点で日本を見てみましょう。日本から見れば、自由民主主義の旗手アメリカは自国のことばかり考えないで、世界全体のことを考えて欲しい、もっとしっかりしてくれよと思っている人が多いかもしれません。しかし、アメリカにおいては「没落する同盟国」という論文が雑誌Foreign Affairsに掲載され、中国と対峙する上で、これまでの2大同盟国である日本(経済低迷:平成30年間にはほとんど経済成長はありませんでした)と英国(EU離脱)は大丈夫かと心配されています。アメリカは将来に向けてのパートナーを模索し始めており、その候補としてインド、インドネシア、フィリピンなどが挙がっています。

GDPは生産額に注目しているため、本来の経済力を反映できていないという反論も昨今出てきました。確かに無料で享受できるデジタルサービスの経済効果はGDPに十分反映されてはいません。例えば、これまで3000円で買っていたCDがダウンロードにより2000円で楽しめるようになれば、1000円の消費者余剰なるものが発生します。こういったネット上のサービスによって生じる消費者余剰は日本ではGDP比3.5%前後あると言われていますので、何某かのGDP嵩上げ要素にはなるでしょう。であったとしても日本のデジタルサービスは最先端ではなく、明らかに米中の後塵を拝していますから、日本の地位を急に上げるほどの要素とは言えないでしょう。

2018年NHK放送文化研究所の世論調査によると日本人の生活全体の満足度は満足39%・どちらかといえば満足53%、合計92%の人が満足しているという驚きの結果でした。また、2016年のニッセイ・インターネットアンケートによると8割近い人たちが将来に不安(健康・収入・仕事)を抱えているという結果が出ています。「不満はないが不安はある」というのが現代の日本人の平均像です。将来に対する夢や希望や挑戦といったエネルギーを感じることができない残念な結果です。公よりも私を重んじる「イマ、ココ、ワタシ」が日本に蔓延する前に、他者を慮り、次世代のために世の中を良くしていこうという「サキ、マワリ、ミンナ」への思考転換が、世界の中で埋没せんとする日本から脱するひとつの処方箋なのではないだろうかと感じています。