近江商人の「売り手よし・買い手よし・世間よし」の精神

2016年5月6日 at 9:55 AM

近江商人の「売り手よし・買い手よし・世間よし」の三方よしの精神は有名な商売理念ですね。お客様に喜んでもらうことはもちろんのこと、世間様にもお役に立つという考え方のもと、そうやって信頼を得ることが結果的には商売を広げることに繋がると実感していたからの理念だと思います。

近江商人の起源は鎌倉時代にまで遡ると言われていますが、江戸中期には商業で力を持ちはじめた近江を幕府が天領として直接治めるようになりました。近江商人は「葵」の御紋が入った通行手形によって、関所を難なく超えてさらに全国に商売を広げていったそうです。

当時は「社会貢献」といった大それた考え方はなかったでしょうが、商売での利得のみならず、多くの人に喜ばれるものを提供し続けて、商人として愛されていった。結果、地域貢献・社会貢献につながっていたことが、現代にまでその理念を引き継いでいることに感嘆します。近江商人の商売十訓は以下の通りです。

⓵商売は世の為、人の為の奉仕にして、利益はその当然の報酬なり
⓶店の大小よりも場所の良否、場所の良否よりも品の如何
⓷売る前のお世辞より売った後の奉仕、これこそ永遠の客をつくる
⓸資金の少なきを憂うなかれ、信用の足らざるを憂うべし
⓹無理に売るな、客の好むものも売るな、客の為になるものを売れ
⓺良きものを売るは善なり、良き品を広告して多く売ることはさらに善なり
⓻紙一枚でも景品はお客を喜ばせる、つけてあげるもののないとき笑顔を景品にせよ
⓼正札を守れ、値引きは却って気持ちを悪くするくらいが落ちだ
⓽今日の損益を常に考えよ、今日の損益を明らかにしないでは、寝につかぬ習慣にせよ
⓾商売には好況、不況はない、いずれにしても儲けねばならぬ

どうでしょう、多くが今でも十分首肯できる内容ではないでしょうか。

さて、試みに次のような7パターンの事例を考えてみました。
(1)売り手のみよし:いわゆる詐欺ですね。売り手が「濡れ手で粟」で大儲け。買い手は騙されて粗悪品をつかまされる。最悪はお金だけ取られる。立派な犯罪です。
(2)買い手のみよし:いわゆる買い叩きでしょうか。搾取という言葉もあります。他人に帰属すべき利得を不正に取得することや、他人を使役して不当な利益を得ることを表します。下請法でも優越的権地位の濫用行為を防止しています。コロンブスの新大陸発見から始まる植民地時代には第二次世界大戦終結まで400年以上も、アフリカやアジアの資源や労働力をただ同然で搾取していました。ヨーロッパの繁栄は実はこうした多くの犠牲によるものです。
(3)世間のみよし:私利私欲を捨て、世のため人のために身を捧げる奇特な方たちが目に浮かびます。飢えや病に苦しむ人々や、恵まれない子どもたちのためにインドのコルカタに施設を造り、生活の世話や看病を行ったマザーテレサ。仏教界にも高名な方がいらっしゃるとは思いますが、自身の修養という色合いを強く感じます。政治家などは本来、世の中を良くする高邁な精神を持って志したはずですが、選挙落ちればただの人と、手段が目的化してしまうケースも少なくないようです。
(4)売り手よし・買い手よし:いわゆるWin-Win関係ですね。スティーブン・R・コヴィーの著作「7つの習慣」(1989年)で広く世界に知られた用語です。しかし、考えてみれば双方が利益を得られなければビジネスは成り立ちませんから、当たり前と言えば当たり前。ちょっと毛色は変わりますが、時代劇でお馴染みの「越後屋と悪代官の悪だくみ」では、やはりどこかで誰かが泣いているのはご承知の通りです。単なるWin-Winの影の部分を忘れてはなりません。
(5)売り手よし・世間よし:買い手が馬鹿を見ている構図が浮かびます。わかっていながら敢えて高く買っているとすれば、買い手もよしとなるでしょうが、それはあくまで買い手の主観の問題。金やダイヤの宝飾品や、高級ブランド品(時計やバッグ等)を買っている方はこれに近いのではないかと思います。金の装飾品は金の地金代に加工費、デザイン料が乗っかりますから、買ったときは高くても、金の地金の価格が同じなら、必ず損をします。
(6)買い手よし・世間よし:売り手が赤字でやっている場合は長く続きません。薄利多売のビジネスモデルがこれに近いかもわかりません。過去、このビジネスモデルで大成功をおさめた企業は少なからずあります。「主婦の店」から価格破壊を合言葉に成長したダイエーなどスパーマーケットではよくある業態です。中身は自転車操業ですから成長が止まってしまうと途端に負債が膨らんで破綻してしまいます。需要が伸びている時期には成立するビジネスモデルですが、成長が鈍化したら業態変換を余儀なくされます。BOPビジネスも話題によく上がりますが、本当に買い手が喜ぶ商品開発には難題山積と言わざるを得ません。
(7)売り手よし・買い手よし・世間よし:一言でいえば、ステークホルダー全員の満足ということでしょう。売り手と買い手が扱っているものは、実はその背後、あるいはその先に別の顧客(関係者)がいることを意識するということです。売り手が扱うものを作っている作業場の環境や賃金が劣悪なものでないのか、買い手がそれを基に作った最終製品がお客様の満足に繋がっているか(代金に見合う、またはそれ以上の価値があるかどうか)、製作過程で公害(空気汚染・水質汚染・土壌汚染)を巻き散らしていないか、法律を犯していないか等、ビジネスの全体像をきちんと見据えることが重要です。

情報格差が昔ほど無くなった今の時代、「パナマ文書」のような情報に社会は浴します。企業も個人にとっても、改めて近江商人の行動理念を心に刻む時代になったのではないかという気がします。
最後に二つ、近江商人の行動規範をご紹介して今回のブログの締めとしたいと思います。

利真於勤【りはつとむるにおいてしんなり】投機商売、不当競争、買い占め、売り惜しみなどによる荒稼ぎ、山師商法や政治権力との結託による暴利ではなく、本来の商活動にはげむこと。
先義後利栄 好富施其徳【ぎをさきにすれば、のちにりはさかえ、とみをよしとし、そのとくをほどこせ】人として道理をわきまえた商いをしていれば、利益は必ず後からついてくる。利潤を追求する事が第一ではない。商売を繁盛させて、利益が増えるのはいいこと。そうして得た利益は社会に還元せよ。