うなぎとビール

2015年9月8日 at 4:15 PM

すっかり秋めいてきました。晩夏にこんなに雨が降り続くのも珍しいですね。一時の猛暑が嘘のような涼しさです。7月後半から猛暑の夏の定番というべき「うなぎ」を食べたい食べたいと思い、たまたま用事があった江戸川橋付近の創業1910年という鰻屋に電話をしてみると昼でも予約が一杯で入れないとの応対。それ以来なかなか機会が無く、たまにスーパーやデパートの食品売り場でうなぎを見かけるものの、一尾3000円では、絶対鰻屋で食べるべきと心に決めていました。8月に入ってやっとその機会に恵まれ、横浜でボリュームたっぷりのうなぎ中入り丼(御飯の間にもう一枚鰻の蒲焼が入っている)4400円と生ビール600円、それに消費税で〆て5400円20分で平らげ大満足をしました。しかし、一食5400円というのは贅沢なので、なかなか一人で鰻屋に入る決心がつきませんでした。夜の宴会で5400円は普通の会費、ちょっと後輩にウェイト付けされれば10000円は飛んでしまいます。鰻の五千円と飲み会の五千円は前者が贅沢に聞こえるのに対して、後者は普通そんなもんだろうと感じます。前者が20分、後者が2時間といった単位時間当たりのコストも関係しているかもしれません。前者は清水の舞台からとは言いませんが、後者に比べると思い切りが必要でしたが、スーパーの3000円の鰻を家で食すのよりは鰻屋の蒲焼に十分な価値があるという判断が背中を押してくれました。

数年前に「100円のコーラを1000円で売る方法」という本が話題になりました。日本の企業は高品質・多機能、でも低収益。どうしたらこの低収益体質から脱却できるかをテーマにした本でした。1000円のコーラとはリッツカールトンのルームサービスのコーラの価格というのが種明かしです。正確に言うと、ラグジュアリーな快適空間であるホテルの部屋で、最適な温度に冷やされたコーラにライムが添えられて、シルバーのお盆に恭しく運ばれてきたというサービス全体に対する値付けです。リッツカールトンのルームサービスでコーラを頼む人は勿論、値引きは要求しません。提供された全てのValueに納得感が得られるかどうかで満足感が決まります。(ちなみにコーラ1缶の原価は液体が5円以下、缶が10円程度と言われています。価格ドットコムで見ると1缶70円で売っています)

ここでの顧客満足とは、「顧客が感じた価値-事前期待値」の差です。お笑いの世界にもこの式は通用します。つまり「あまり期待していなかったけど、案外面白かった」ということです。「面白いですよ~」とハードルを上げてしまうと、少々面白いくらいではお客さんは笑ってくれません。しかし、商売の世界では「事前期待値」をあまり下げてしまうと、他社との競合においてそもそも見向きもしてくれませんし、買ってもくれないでしょう。事前期待値を高めつつ、期待を超えるそれ以上の価値、あるいは顧客が気が付かない意外な心配りを提供していくことが重要になりました。

ビールはどうでしょう。ビールもコーラに負けず顧客は原価の何倍もの御代を払っています。ビール各社の売上原価を見てみると、アサヒ60%、キリン57%、サッポロ65%、サントリー50%(サントリーはビールがメインではありませんが)となっています。皆さんご存知のようにビールは酒税が高いです。350ml缶でビール77円、発泡酒47円、第3のビールで28円を納めています(全て一律55円にしようという法案が議論されています)。販売費及び一般管理費(SGA)が製造業の中では非常に高い業種です。アサヒ33%、キリン38%、サッポロ35%、サントリー44%です。販売や宣伝広告、間接経費がかなり高いですね。冷えたビールを飲んでいるときにはこれっぽっちも気にしませんが、これらも顧客の皆さんが負担しているわけです。ちなみにトヨタはあれほどコマーシャルの認知度が高い割にはSGAは10%です。ビール会社の酒税の負担は、売上高の15%程度はありますから、純売上高比率で見ると、SGAはさらに5~6ポイント上昇します。350ml缶のビール原価は50円+缶20円+酒税77円。居酒屋の生ビール樽は20リットルで9000円ほど、ジョッキ一杯180円くらいでしょうか。テーブルに持ってきてくれますから、その分の人件費やその他固定費負担分はプラスで掛かりますね。

原価の話はやめてくれ、酒がまずくなる!という声が聞こえてきそうですが、それこそが売る側の狙いです。原価を気にせず満足にお金を払う顧客を掴めれば高収益が期待できます。毎日ビールを家で飲む人は、原価とは言わないまでも価格には敏感でしょう。酒税の安い発泡酒や第3のビールに切り換える人も出てきます。前段の1000円のコーラを毎日飲む人はまずこの世に何人もいないでしょう。だからこそ、その価値が際立ってくるのだろうと思います。日常と非日常それぞれの場面でのサービスや満足感が付加価値を生み、生産者の生活を支え、消費者の人生を豊かにする。金は天下の回り物とはよく言ったものです。