価格下落率1位ナフサ、そして原油

2015年1月10日 at 5:48 PM

ナフサは2014年取引相場でドルベースで一番の下落商品となりました。年間で51.1%下げて487ドル/トン(120円/$換算で4万円強/kl)になったと12月27日付け日本経済新聞が報じています。ナフサの原料は原油で、この原油の価格下落(48.4%)が直接的に影響しています。ナフサとは元来ギリシャ語やラテン語で原油を意味する言葉から来ていますが、今では石油精製品のひとつとして定義づけられています。原油を加熱炉で350度まで熱し、蒸留装置によって沸点の低い方から、LPガス、ガソリン、ナフサ、灯油、軽油、重油などのさまざまな石油製品に生まれ変わるわけです。さらにナフサは分解装置等で重さによって軽い方から、エチレン、プロピレン、ブタジエン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの石油化学製品になっていきます。

ナフサの価格は基本的には原油価格に連動し、その都度都度の為替レートによって換算されます。原油価格は需給によって形成されるとは言うものの、大きくは政治情勢に左右されると言っていいでしょう。70年代半ばまで6000円/klだったナフサの価格は、第四次中東戦争を引き金に発生した第一次オイルショックによって76年には5倍の3万円/kl、そして79年のイラン革命によるイラン石油生産中断を受けた第二次オイルショックによって6万円/klとさらに倍にまで跳ね上がりました。第二次オイルショックが収まった85年から2000年代前半までは15000~3万円/klで落ち着いていたナフサ価格は、BRICsなどの新興国の原油需要増加、産油国の生産能力低下などを背景にしつつも、投機資金や先物市場における思惑買いなどの余剰マネーの流入により08年85000円/klを超える価格に至りました(第三次オイルショック)。2008年9月のリーマンショックで一気に1/3まで価格は落ち込み、その後のアメリカの景気回復にその足取りを合わせるように7万円まで価格を戻してきたのが2014年夏までの推移です。

以降のナフサ価格の下落は7月をピークに一挙に下げ続けた原油価格を反映した形ですが、大きな要因はアメリカのシェールオイルの台頭と言えるでしょう。アメリカがエネルギー輸入国から輸出国へと変身すれば、世界のエネルギー需給に大きな変動要素となります。シェールオイルの製造コストは$70~95/バレルと言われていますが、将来の増産効果によりその半分にまで下がるというシンクタンクの調査もあります。一方、サウジアラビアを盟主とするOPECは昨年末に減産をしないという方針を決定し、それを受けて市場では既に原油価格が$50/バレルを切っています。産油国の採算コストは$40~60/バレルと言われたり、実際の生産コストは償却しきっている設備であれば$10/バレルとも言われています。アメリカのシェールオイルは投資し始めたばかりですから、価格競争になったらOPECなどの産油国には敵いません。それを見越してのOPEC減産見送り判断でしょうか。実際、シェールオイル企業のいくつかは既に破綻してしまいましたし、投資していた日本の大手商社も痛手を被るところも出てきました。

実はもうひとつの要素が「イスラム国」にあります。ご承知のようにイスラム過激派組織がイラクとシリアの一部を実質支配している地域ですが、そこの油井設備を占領下に置き、$40/バレルで市場に流し、戦費を稼ぎ出しているという情報があります。まだ原油価格が下落しそうな兆候が見えるのはそういった背景もありそうです。イスラム国にしてみればタダで手に入れたようなものですから、反イスラム勢力が困ることであれば、手段を選ばず安い原油を市場に流すことはいともたやすいことでしょう。

シェールオイルvsOPEC産油国の構図で、影響を大きく受けているところがロシアなどの歳入を資源に頼っている国々です。採算はどうあれ、国家予算の多くを資源売却代金から得ている国は歳入が大きく減ってしまうと財政危機に見舞われます。ベネズエラやナイジェリアなどはデフォルトになるのではないかと囁かれています。ベネズエラはキューバの原油供給元ですが、キューバとアメリカの国交回復となれば、その大きな輸出先を失い真っ先にデフォルトとなりかねません。産油国の財政運営が健全に行われるための原油価格損益分岐点なるものが英ガーディアン紙に載ったことがあります。ベネズエラは$121/バレル、ナイジェリアは$119/バレル、サウジアラビアでも$93.5/バレルです。サウジアラビアはこれまでの蓄えがあるので、短期間の価格下落であれば問題ない、実は裏でサウジアラビアとアメリカが手を結んで覇権主義ロシアを兵糧攻めにしているといったまことしやかな噂まで飛び出しています。

原油の話が長くなってしまいましたが、ナフサの話で締めくくりましょう。ナフサは国内ではほぼ全量が原油から製造されますが、アメリカでは天然ガス由来のエタンから製造されます。今後の動向によってはシェール革命で米国産のエタンはさらに競争力を増す可能性もあります。また、ポリエチレンなど多くの石油化学製品の基礎原料となるエチレンもナフサから作られますが、中東では原油採掘時の随伴ガスを活用したエチレン、中国では石炭由来のエチレンの生産も進んでいます。

エタンからは製造されないプロピレンのような中間製品もありますが、こうした非ナフサ系エチレンの台頭といった動きもありますので、従来のナフサ価格連動の石油化学製品という固定概念も見方を変える必要がありそうです。技術の進歩は止まることはありませんね。PEST分析の格好の材料になります。

価格高騰率1位のコーヒー豆から見える世界

2015年1月6日 at 3:00 PM

2014年年間で最も取引価格が上がった商品はコーヒー豆である。12月26日付け日本経済新聞によるとサントス産No.2はキロ当たり605円と49.4%高騰したと報道されました。2000年からの価格推移を見てみると2001~2年を底に2011年まで一気に6倍にまで跳ね上がり、その後2014年初頭までは3分の1近くまで値を下げ、2014年また2倍に高騰しています。

コーヒー豆は通常、豊作と不作を1年ごとに繰り返すそうです。というのは豊作の翌年コーヒーの木の体力が弱まり、収穫量が減ってしまうからです。2013年は前年が豊作だったことから不作が予測されていましたが、実際には想定より豊作となってしまい価格が下落しました。そうすると生産者の多くが収穫して安値で売るよりは、剪定や植え替えなど木の手入れを優先して収穫を落としたことと天候不順が重なり2014年は逆に価格が高騰してしまったというのが専門家筋の解説です。

ご承知のようにコーヒー豆の生産国はブラジルが世界の3分の1を占めて首位、以下ベトナム、コロンビア、インドネシアと続きます。コロンビアのコーヒー豆は高品質で人気が高いですが、山地の斜面で栽培している小規模農家が多く生産量はほぼ増えていません。1999年までは2位でしたが、人手を掛けずに生産性を上げる方式のベトナムに2000年には抜かれ、今やコロンビアとベトナムの生産量は2倍の差になっています(一般に生産量は1 ha当たり1 tが目標とされますが、ベトナムのそれは3 ~5 tに達し、10年の間に輸出量を10倍に拡大しました)。またコーヒー豆の収穫に際しては熟した赤い実だけを手で摘むというハンドピックが高級品の条件となりますが、ベトナムではコーヒー豆は乾燥させれば真っ黒になるので見分けはつかないという理由で、完熟豆も未熟豆も買取業者は同じ価格で購入します。ですから、コーヒー農家では収穫期を迎えた木の実をすべて採ってしまい、青い実も赤い実も混ざって収穫されてしまいます。

実はコーヒー豆には大きく分けて2種類あり、一つはアラビカ種で、ジャマイカのブルーマウンテンなど、世界各地の有名な産地の名が冠されることで知られています。それに対してベトナムのほとんどで採取されるロブスタ種は味は苦くて品質が劣り、単独で飲まれることはほとんどありません。ベトナムのコーヒー豆の知名度が低いのは、ブレンドされたりインスタント・コーヒーの原料として用いられることがほとんどだからです。

ベトナムが世界第2位のコーヒー輸出国になったのは、病気に強く農薬を撒く必要性も少なく、収穫後は庭先で天日乾燥させるだけという手間のかからないロブスタ種を増産したからに他なりません。インドネシアも19世紀末にアラビカ種がサビ病(多くの植物がかかるカビが原因で発生する空気及び水媒伝染性の病害)によって被害を受け、多くがロブスタ種への転換を図りました。ロブスタ種の価格はアラビカ種の半値から7割ほどですが、その(品質はさておいて)高い生産性ゆえの価格競争力で利益を確保していると言われています。しかし価格が下落すればなるべく投資をせず、再び価格が高騰するのを忍耐強く待ち続けるというその日暮らし的栽培手法を取っています。

一方、アラビカ種は標高1000m以上の高地でなければ育ちません。施肥や剪定などにも手間がかかり、手入れをするための知識を必要とします。農薬や肥料などに費用をかけ、水洗処理施設に投資を行い、水洗式で処理し、欠点豆を手で取り除いて高品質を保つ努力をしています(冒頭のNo.2は最高級品と言われ、欠点豆は300g(約2千粒)あたり4個以内と規定されています)。

環境面からもこの2品種の差を見ることができます。暑さに弱いアラビカ種の場合には、被陰樹が必要となります。それは生物多様性の観点から環境にやさしい栽培方法とされ、実際、渡り鳥はこの被陰樹を休憩地として長旅の羽を休めるところにしています。ベトナムでは完熟豆だけを摘むというようなインセンティブが働かない市場なので、たとえそれがどんなに環境破壊的な手段を用いて生産されていようとも(絶滅の危惧される野生動物の重要な住処である国立公園内で違法に栽培されたコーヒーなどが流通すること等)違法な農地開拓が進む現状があります。

安ければ買っていくバイヤーと安ければ売れるいう消費市場が、成長を意図する貧困国とその農民を巻き込んでこの構図を作り出しているとも言えます。コーヒー豆に限らず多くの商品価格に言えることですが、ふた昔前であれば、新興国が生産国、先進国が消費国という構図が、多くの新興国が経済成長の波に乗り、消費国の仲間入りをしました。ですから豊作不作の幅は大きく変わらなくても、消費市場が大きくなったので、以前より価格変動の幅が大きくなったと言えます。この傾向は今後も続くものと予想されます。

ここでコーヒーの最終小売価格に対する流通経路の各取り分を見てみましょう。1994年のデータですが、農家10%、仲買人21%、輸出業者8%、輸送・保険料2%、バイヤー8%、焙煎業者29%、小売業者22%と焙煎企業以降の取り分に比較して生産国の農家の取り分が非常に少ないことが見て取れます。これを焙煎業者・小売業者の搾取と取るか、企業努力と取るかは見解が分かれるところでしょうが、いずれにしても生産者のモチベーションが低下すれば、生産量の低下や品質の低下が起こるのは必然でしょう。生産者はもっと儲かる作物があれば転作をしていくでしょう。実際ベトナム政府は上述のマイナス面是正の為に奨励金などの施策を通じて転作を奨励していますが、それに応じるのは利に聡く器用な農民やコーヒーの木を切り倒すことによって補助金をもらうことだけを考えているような農民で、なかなか本来の趣旨に沿った是正が進んでいるとは言い難い状況のようです。

日本では一杯5000円もするジャコウネコの糞やゾウの糞から採取される未消化の豆を挽いたコーヒーを至極のコーヒーとして飲んでいる人もいれば、安価で苦味の強いロブスタ種の使用比率が増え、味が落ちているのにもかかわらず円安により高いコーヒーを知らぬ間に飲まされている人もいるでしょう。コーヒー豆の価格騰落は気候変動と投資家の思惑で乱高下するという短絡的思考で留まってしまう人は、その奥に広がる複雑怪奇な世界を楽しむ機会を失っているかもしれません。モノの価格のメカニズムと世界の経済や政治はこのような形で必ずつながっているという面白い世界です。

次回は下落率1位のナフサについて言及してみたいと思っています。